人物や事象をおもしろおかしく、比喩的に誇張した絵を「戯画」(ぎが)と呼びます。日本において、特に中近世に描かれた戯画には、人間や動物、妖怪や幽霊も入り混じった、ユーモラスで賑やかな、楽しい内容の作品がみられます。擬人化、滑稽化の手法をもって描かれる世界観はしばしば風刺の性格も帯びて、現在の漫画表現に通じる工夫もみられ、深く知るほどに興味をかきたてられる世界です。
文学博士で美学者の谷川渥さんが監修をつとめた「戯画を楽しむ」では、江戸時代から明治にかけて人気を集めた浮世絵師たちによる滑稽画や諷刺画を多数収録。戯画に描かれるモチーフや代表的な作品の解説を通して、その画が描かれた時代背景や物語の表現手法、作品そのもののおもしろさを楽しく理解できる一冊となっています。
本記事では第3章「絵巻物に見る戯画のはじまり」より、「百鬼夜行絵巻」について解説します。
百鬼夜行絵巻
夜中に歩く絵王会の滑稽な姿
自然観のとらえかたで、古代人は善意を信ずるものと、悪意を信ずものがあり、のちに前者は寓話、後者は幽霊や妖怪の物語と結びつくことになったといわれる。平安時代には貴族たちに絵巻物が愛好されて定着し、そのご娯楽としての化物や妖怪画が多く描かれた。
『百鬼夜行絵巻』は室町後期のもので、さまざまな妖怪たちが夜行する姿が描かれている。青鬼や赤鬼のほか琴、琵琶(びわ)、笙(しょう)などの楽器類、沓(くつ)、扇、鍋、釜、五徳などの台所の器物や調度の化物が集められて描かれた。