いわゆる「ヒーローもの」やSFに関連したテーマの物語においては、しばしば複雑な機構を持った機械やロボットが登場します。変形や合体など、世界観設定やコンセプトに沿ってデザインされ、人間には不可能な動きによって作品世界を表現する登場メカたちの魅力は、いつの時代も人々を惹きつけてやみません。
「メカニカルデザイン解体新書」では、「エルドランシリーズ」や「勇者王ガオガイガー」などのメカニカルデザインを手がけたメカニカルデザイナー・やまだたかひろ氏がデザインしたロボットや武器、乗り物の設定資料をもとに、デザインの考え方やテクニックを詳細に紹介。
キャラクターのラフやアイデアスケッチ、内部構造図のほか、変形ロボットの仕組みや、アニメーション化や玩具化を前提としたデザインの考え方、描き方の違いなども解説しています。
やまだたかひろ氏が過去に手がけた「熱血最強ゴウザウラー」や「勇者指令ダグオン」など多くの作品のイラストも収録している本書ですが、ここでは「コンセプトから考える基本のテクニック」の章より、オリジナルの変形メカをアニメ用にデザインする際のテクニックについて紹介します。
アニメ用ロボットのデザイン
玩具用の複雑なディテールやデザインを描きやすくするために線を減らし、ポージングしやすいフィルムにデザインをやり直していきます。手足の大きさや長さなど、微妙なバランスで大きく違いが出ます。
01
玩具用のデザインをもとにアニメ用にバランスやプロポーションを整えていきます。足を長くして、ボディは小さく、膝のパーツは目立たせるなど、強調するところや簡略化するところなどを考えながら調整していきます。
- ティラノサウルスタイプの時のつま先なので、省略することはできませんが簡略化します。
- 足は少しだけ外向きに傾かせています。ポージングの良さと、これを描く手間が自分への試練。
02
この時点でディテールも少し意識しながらデッサンを整えて、バランス調整をします。絵全体を整えつつ、描き進めることで出てきた問題点などを把握していきます。ここでは肩のトゲ部分の見え方に整合性が取れていないので、次までに解決策を検討。
- 見ている人を見つめるように、頭部は正面向きに描き印象づけます。
- アオリの角度で描いているので、この位置からだと、トゲのパーツが見えないはずという問題点を発見。次の画稿までに検証します。そのため片方しか描いていません。
03
細かいディテールなどを整理し、細部を描いていきます。玩具用のディテールをどう簡略化するかがポイント。足のつけ根にあるティラノサウルスのツメや膝につけた恐竜の意匠などをアニメ用にリファインしています。
- デザイン画でトゲが見えないのはもったいないので、結局つけておくことにしました。これは以前『絶対無敵ライジンオー』のプロデューサー内田健二(現・サンライズ代表取締役会長)さんに「たとえ嘘でも見映え良くすることも必要だ」と教わりました。
- 通常は頭部も簡略化して、何パターンかデザインを描くのですが、今回はこれくらいなら作画でも大丈夫と判断して、玩具用のものをそのまま使用。
- ティラノサウルスのツメの部分の名残として、ラインは入れておきます。
- 恐竜の顔のようなデザインにしていた膝は平面的に変更。色の塗り分けでキバを表現。
POINT:アニメ用の設定画は頭を正面に両足は少し傾いた構図に
アニメ用の設定画はオンエア前に雑誌に掲載されることもあるので、頭を正面に向けて描いて、見ている人に訴えかけているように描きます。足はどちらか片足を正面で描くほうが手間が省けるのですが、私の場合両足とも傾きをつけています。手間がかかりますが、見映えの良さと自分への試練にしています。
ティラノサウルスロボットタイプ(アニメ用)
人型ロボットをアニメ用に線を減らしたり、フォルムを調整したものです。
Technique
ボディになっている恐竜の顔は、鼻のところのトゲは台形にまとめ、キバはフラットにして塗り分けで表現できるようにしています。ですが、全体的にはあまり簡略化していません。ボディや胸のような目立つところはあまり簡略化しないようにしています。
太ももの部分はあまり目立たないので、ディテールは思い切って簡略化します。足のつけ根にある恐竜のツメは一本一ずつ描く手間を省くために一体化して線だけで表現。膝の恐竜の顔のようなパーツは凹凸のないフラットな状態にし、塗り分けでキバを表現しています。
POINT:線を減らすテクニックがデザインの向上にも繋がる
今後CGが増えていくと、線を減らすという作業が減っていく時代になると思います。ですが、私の場合は線を減らす作業をたくさんやってきて良かったと思っています。デザインをいかに咀嚼して、色も含めまとめ上げ、ポイントとなる部分を捉えるという作業がデザインの役に立つからです。映像の中で2〜3秒しか映らなくても、情報の視認性があるギリギリのところまでそぎ落とすということが要だと思います。これはロゴマークなどのグラフィックデザインにも通ずるところだと思います。