MOZU トリックラクガキアート集

MOZUさんインタビュー:同じ人が作ってるの!?「トリックアート」「ジオラマ」「コマ撮りアニメ」、3つの”武器”を持つMOZUさんの発想技術

ジオラマ作家として、コマ撮りアニメ―ターとして各方面で活躍するMOZUさんの新刊「MOZU トリックラクガキアート集」は、MOZUさんが小・中学生の頃から描き続けているという「トリックアート」をメインテーマとした作品集です。

本書ではMOZUさんの新作20点を含む全53作品を収録。SNSやマスメディアを中心に、広く話題になりました。授業の板書を写したノートの上に繰り広げられる、ノスタルジックで”ちょっと不思議”な世界観は、写真に撮って人に教えたくなる魅力を持っています。

PICTURES編集部では、2018年12月に紀伊國屋書店新宿本店で開催されたイベントにおいてMOZUさんへのインタビューを行い、本書制作のきっかけや学生時代のエピソード、作品制作に関する最近の取り組みや考え方などをお聞きしました。

MOZU トリックラクガキアート集

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3カ月で新作20点。「ネタ出しが一番きつかった」

――「MOZUトリックラクガキアート集」を制作した経緯を教えてください。

以前、株式会社ノウトさんから、「NOUTO」という錯視ノートをクラウドファンディングで出していただいたのですが、これが最近話題になったことが発端といえるでしょう。2018年に開催された「ミラクル エッシャー展」の売店に「NOUTO」を置いていただいたことがあって、これがものすごく売れまして。買ってくださった方が写真をSNSにアップロードして、それがすごく拡散されていました。

今回の作品集を出そうということでお声がけいただいたのもこの頃で、僕もNOUTOを出した時点で30作品くらい作っていたので「今まで作ったものをまとめる分には全然いいですよ!」というノリでお引き受けしました。でもその後企画書を見たら「新作20点以上を収録」(本書の収録作品点数は53点)なんて書いてあって、「聞いてないよ!」となったものでした(笑)。

正直、このお話をいただく前、NOUTO収録分のトリックラクガキアートを作る段階でも大変だったので、そこからさらに20と言われても無理だろうと思っていました。でもその時点で企画は進んでしまっていたし、これはもうやるしかないな、ということで、そこから怒涛の勢いで、それこそ死に物狂いで作りました。新作の制作期間は3カ月くらいだったと思います。

――MOZUさんといえば、本物と見まごうような精緻なジオラマ、そしてコマ撮りアニメーションで有名ですよね。トリックアートも手がけていたとは。

トリックアートの「三角定規」とジオラマの「小人の階段」を同時につぶやいたら、「同じ人が作ってたのか!」って驚かれました。作品だけが拡散されて、作者名まで見る人って意外と多くはないんだなと。

でも、同じ種類の作品集を続けて出すのではなく、別ジャンルの作品集として、2年続けて本を出版するというのもなかなかできない体験だと思います。無茶もしましたが、最終的には良いものが絞り出せたと思っていて、満足しています。

トリックラクガキアート「三角定規」
ジオラマ「小人の階段」

――個人的にお気に入りの作品はありますか?

基本的に全部好きですが、今回作った中では「アブダクション」が圧倒的に好きです。いままで作ったトリックアートの中でも、3本の指に入るかもしれません。これは最初、小説仕立てじゃなかったんですよ。UFOだけ描いてたら文章を作りたくなって、一文だけ作ったところで、並べて小説にしたら面白いんじゃないかと思い直して、やってみたんです。

「MOZU トリックラクガキアート集」収録の新作「アブダクション」

収録作品を通して一番好きなものを問われれば、ダントツで「虹」です。これを思いついた瞬間は、ずいぶん嬉しかったのを憶えています。次に好きなのは、「ロケット」ですね。この2点はNOUTOの方でも人気の作品でした。特に「ロケット」は、今までの「学生ノート」という路線から外れて、子供っぽいイメージにしたのが良かったのかもしれません。

トリックラクガキアート「ロケット」

――本文の中にときどき、友達の話が出てきますよね。最初にトリックアートを作ったのは学校だったとのことですが、その頃の話をもう少し聞かせてください。

中学2年生の時、授業中、急に絵が描きたくなったのですが、描くものが思いつかないので、たまたま手元にあった三角定規を描いてみたというのが最初です。授業中ってところ重要ですよ(笑)。

元々細かい作業は好きだったので、特に定規の目盛り部分を一本一本描く時なんかは超楽しかったです。めっちゃ真剣に描いてたのを憶えています。

このノートって実は授業用なんですが、今改めて見返してみると、全然勉強してないですね……(笑)

――すべてシャープペンで描いてるんですか?

勉強用のノートに描いてあるものはそうですね。

――当時からかなりの完成度ですね……。トリックアートは友達の間でも話題になったりはしなかったのですか?

話題にはなりましたね。隣のクラスからも人が見に来たりして。それだけじゃなく、職員室でも話題になっていたみたいで、「水越(MOZUさんのこと)は全然勉強しないけど、すごいの描いてるぞ」ということで、いろんな先生方が見に来ていたのを憶えています。

クラスで話題にはなったのですが、僕も当時はスマホを持っていなくて、Twitterも知らなかったので、それ以上広がることはなかったんです。僕自身、これをすごいことだとは思っていなかったし。

この「三角定規」が注目を浴びたのは、僕が中3のとき、父がFacebookに写真をアップしたことがきっかけでした。そしたら、高木さん(株式会社ノウト代表取締役所長の高木芳紀さん)という方がその投稿を見つけてくださって、そのうちこれをたくさんまとめてノートにしたら面白いんじゃないか?というお話をいただきました。紆余曲折あって、話が出てから形になるまで4年くらいかかったのですが、結果としてこれが色々なところに繋がったんです。

――本書の製作時に苦労したことはありますか?

アイデア出しですね。トリックラクガキって何でも表現できると思われがちなんですが、実はそうじゃなくて、すごく縛りがきついんですよ。最も大きな縛りは「立体物ができない」こと。線とか面で立体を表現しないといけない。立体物自体は簡単にできるんですが、なんでできないかというと、やってる人がいっぱいいるからです。僕の作品は「ラクガキが立体に見える」のが持ち味なので、その縛りの中で新規に20作品を制作するというのはほんとにしんどかったです。

――学校の風景を背景とした作例写真も多いですね。

モチーフを「学校のノート」にしたのは、ほとんど誰もが見たことのある、多くの人にとって身近に感じられる景色だからです。今思えば、親近感とか距離の近さがSNSで広く話題になった決め手だったのかなと感じます。「なんでもないものがすごい」、例えば「百均の素材だけでジオラマを作った」ら、皆さん話題にしてくださいます。逆に自分とは縁遠い、よく知らないものが「なんだかすごく」ても、あまり驚かれないのではないでしょうか。

トリックラクガキアート「図形問題(三角形)」

――ノートの内容もすごくそれっぽい。

ノート部分は書くのが大変でしたね……最初の頃は、「ノートのきれいなまとめ方」みたいな主旨のサイトを参考にしていたんですが、最終的には、当時からちゃんときれいにノートを取っていた友達のノートを参考にしました。

――フィギュアや小物と組み合わせた写真も面白いですよね。これもMOZUさんのアイデアですか?

作例写真は、ほとんど編集者の木庭將さんが考えてくださったアイデアです。ここで使ったフィギュアは、海洋堂さんにご協力いただいて、お借りしました。

トリックラクガキアート「双葉」

――本書には立体的に見えるイラストのほかに「一筆書き」も収録していますよね。

一筆書きは小学校2年生くらいの頃から描き始めました。これもラクガキアートと同じで、誰にでも描けるものだと思っていたのですが、SNSにアップしたところ、どうもそうではなかったことが判明しました。これも描いていて楽しいので、気分転換によく描いています。

描き方は、まず枠線を引いて、その中を一筆描きで埋めていくだけです。決められた中を埋めていく作業が好きです。早回しの動画を撮ったことがあるんですが、どんどん埋まっていくのが見てて面白いんですよね。

キリンの一筆書き
インタビュー時、MOZUさんに即興で書いてもらった「1」の一筆書き

 

ジオラマアニメーター MOZUさんによる「1」の一筆書き

 

――本書を購入してくれた人には、どんな楽しみ方をしてほしいですか?

まずは「こんなアイデアがあるんだ」「こんな撮り方があるんだ」ということを知っていただいて、もし自分でも描けそうだと思ったら、是非挑戦してみてほしいです。「三角定規」とかは結構簡単に描けるんですよ。「シャー芯」もバランスを気にすれば簡単に描けるのでおすすめです。

トリックラクガキアート「シャー芯」

何も考えていないときは、頭の中の世界が「広い」

――作品制作のときに「これだけは欠かさない」という習慣ってありますか?

必ず散歩をするようにしています。夜の街を一人で散歩するのが大好きで、2時間くらいうろうろしてます。2時間も歩けば知らない街にたどり着いたりするので、そういう場所を歩くのが好きです。時間帯は20時から22時くらい。

夜闇に浮かぶ電飾とか電灯の光が好きなんですよ。夜だと人目もそんなに気にならないし。ジオラマの作品でもそれをモチーフにしたものがいくつかあります。「小人の階段」にも電飾を入れてますね。これは作ってて楽しかったなあ。

何も考えずに歩いているときって、アイデアが浮かびやすいんですよ。例えば「トリックラクガキアート集」の最初に掲載している「虹」も散歩中に思いついたアイデアです。「これ絶対おもしろいじゃん!」と思って、その日はウキウキして、スキップしながら帰りましたよ(笑)。

逆に仕事とかで「考えないといけないから考えてる」ような状況だと、視界が狭まってしまって、むしろ何も思いつかないんです。何も考えてないときは、頭の中の世界が「広い」気がする。思考が自由になって、フワッとしていたアイデアが急に降りてくる感覚があるんです。そのときに、頭の中で考えてたトリックアートの世界が広がって、新しいアイデアがまとまることもあります。思いついたらすぐにアイデア帳にまとめていますね。

トリックラクガキアート「虹」

――先ほど、思いついた時点でアイデアをノートに描き込むと仰っていましたよね。今日も何冊かお持ちいただいていますが、一冊のアイデアノートを使い切るまでに、どのくらいの期間がかかるのですか?

最初の頃は授業ノートとアイデアノートが一緒くたでしたが、だいたい1年で1冊使い切っていますね。トリックアートでノートを一部分だけ切り抜いたような表現がしたくて、実際に切り抜いたりもしました。ちゃんと授業を聞いてまとめているページももちろんあるんですが、油断するとすぐ描いちゃいますね。当時は「授業中のお楽しみ」でした。小学生の頃は、テストの裏の余白の部分とかによく描いてました。

今後やりたい仕事は「コマ撮りアニメ」!

――SNS、とりわけTwitterでは、ご自身の作品紹介をはじめ、かなりご活用されているようにお見受けしますが、SNSの使い方として意識していることはありますか?

僕をフォローしてくださっている方は、別に僕の私生活が知りたいわけじゃなくて、僕の作品をもっと見たいと思ってくださっている方がほとんどだと思うんです。だから余計なことは言わないのが一番だと考えています。フォロワーさんも数が多くなると、いろんな考えの方がいらっしゃるので、最近は自分が面白いと思う物事や、自分の作品に関わることだけをつぶやくように気をつけていますね。

――今取り組んでいる仕事や、今後やってみたい仕事についてお聞かせください。

今はお声のかかったお仕事を色々お請けしている感じですね。僕には「ジオラマ」「トリックアート」「コマ撮りアニメ」の3つの武器があって、そのそれぞれで仕事をいただけているし、実績も積むことができています。何より僕の作ったものに価値を見出して、お金を出してくださっている。これはすごくありがたいことです。

でも、ほかにやりたいことがある、というのもまた実感としてあります。一番やりたい仕事、という点で言えば、コマ撮りアニメですね。現在、新作を製作中です!

この日は本書出版記念のトークショーとサイン会の開催日。右にいるのは司会進行をつとめたMOZUさんのお父さん

MOZU トリックラクガキアート集

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