グッとくる横丁さんぽ
第4回

ほのぼのとしたイラストエッセイ 杓子定規はあきまへん─ 大阪・ミナミ「法善寺横丁」

『グッとくる横丁さんぽ 全国50の裏通りを味わうイラストガイド』は、旅と食の記事を長年手がけてきた編集者である村上 健さんが、スケッチブックを携えて巡った全国の裏通りを、ほのぼのとしたイラストと軽妙な文章で紹介するイラストエッセイです。

第4回は、大阪・ミナミでたくましく生き抜いてきた横丁をめぐります。

グッとくる横丁さんぽ-表紙
グッとくる横丁さんぽ 全国50の裏通りを味わうイラストガイド

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御堂筋側の看板は藤山寛美、東側は三代目 桂 春団治の筆による。

ビル前面に吊るされた巨大なカニやフグの張りボテの下で、修学旅行生や観光客が入り乱れて派手な喧騒が繰り広げられる道頓堀かいわい。その一隅に、明治時代から変わらぬ情緒を漂わせる横丁があります。

ダメ亭主を支える一途な浪花女の心意気を織田作之助が描いた、戦前の短編小説『夫婦善哉(めおとぜんざい)』の舞台にもなった「法善寺横丁」です。道幅は3m弱、全長80mほどのつつましやかな通り。同作品にも登場する明治26(1893)年創業の老舗割烹「正しょうべんたんごてい弁丹吾亭」をはじめ、両側に老舗のバーや上品な和食の店などが軒を連ねて、大衆的な大阪ミナミの歓楽街のなかでちょっと異彩を放っています。

まめに打ち水されて風情を感じさせる石畳は、元は大阪市電の敷石でした。ついでにいえば、京都の石塀
小路に敷かれた石畳も、昭和53(1978)年に廃止された京都市電の敷石。東京の銀座でも歩道に昔の都
電の敷石が再利用されています。もう一つついでに、スケッチした西側入口(上の絵)の看板の文字を書いたのは、ここをひいきにした芸人の藤山寛美です。

実はこの横丁、平成14(2002)年とその翌年に出火しました。普通、再建時は建築基準法で道幅を4mに広げるとされています。しかし、伝統の横丁を守るべく数十万の署名が集まり、特例措置で元の道幅が守られたとか。

防災は大切。さりとてルール一辺倒にならないのが、大阪らしいゆとりと分別。いいですねえ、こういう対処。生真面目な東京の人は見習おうたらよろし。

 

ミナミで懐かしい味三昧

大阪出張には食べ歩きの余禄があって、心が弾みます。なかでも「ミナミ」といわれる難波/道頓堀/千日前周辺は、もっとも大阪らしい食い倒れエリアです。

ただし、江戸前期から昭和にかけて、まちの主役は劇場でした。中座、角座、竹本座ほか歌舞伎や浄瑠璃の芝居小屋に新喜劇が加わって日本版ブロードウェイが誕生。そこに食べ物屋が増えるのは必定。芝居好きの旦那衆が花街の女性とノレンをくぐったというわけです。

以来、食道楽の役者や文化人らに鍛えられ、老舗の和食、洋食、中華料理がたくましく生き残っています。

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「ご飯にカレーがあんじょうまぶしてあるよって美味い」(夫婦善哉/織田作之助)、カレーが人気の「自由軒」は、明治43(1910)年創業。
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「アラビヤコーヒー」は昭和26(1951)年創業。法善寺正面の通りにあって、古き良き喫茶店のたたずまいと味を保つお気に入りの店です。
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「アラビヤコーヒー」のレトロな焙煎機。このほか、華麗な内装の「純喫茶アメリカン」も徒歩圏内。
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1杯分を2つに分けて食べる「夫婦善哉」は水掛不動の横。明治16(1883)年創業。
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法善寺横丁から西へ、御堂筋を渡ってすぐの「大黒」。料理のどれもがきちんと作られていてうまい。こんな食堂が近くにあるサラリーマンは幸せだ。
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創業明治35(1902)年。「大黒」のかやくごはんとカレイの煮付け、ナスの丸煮。
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創業70年余。欧風料理の「重亭」。古典的な洋食が味わえます。
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重亭のビフカツとオムライス。

 

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「道頓堀今井本店」は、周辺の喧噪とは無縁な落ち着いた雰囲気のうどん屋。
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今井のきつねうどんと豆飯。

 

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地下鉄御堂筋線「なんば」駅から徒歩5 分

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著者プロフィール

村上 健

昭和26(1951)年大分市生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、株式会社草思社入社。企業の広告制作と書籍編集に携わる。平成10(1998)年に独立。本業の傍ら、全国各地のローカル線やまちなみなどをスケッチし続けている。
著書:『昭和に出合える鉄道スケッチ散歩』(JTBパブリッシング)
共著:『怪しい駅懐かしい駅』(草思社)

 


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