西洋甲冑&武具 作画資料
第3回

リアリティとデフォルメのバランスに注意しよう

イラスト:森崎達也

西洋甲冑&武具 作画資料」(渡辺信吾・著)では、中近世から近代の戦争に用いられた甲冑をはじめ、武器や馬具の構造や名称、装備が用いられた時代背景や、それに伴う装備の変遷までを詳しく解説。ファンタジーイラストレーションに落とし込む際のコツも紹介しています。

本記事では同書より、4~10世紀のヨーロッパにおいて用いられた甲冑5種と、同時代の甲冑をモチーフにしたファンタジーイラストの描き方のコツをご紹介します。

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4~5世紀の甲冑1:後期ローマ帝国軍団兵

西洋史に不滅の足跡を残したローマ帝国は、395年に東西に分割され、西ローマ帝国は476年に滅亡します。ローマ帝国軍団兵が最終期に着用していた甲冑は最盛期のものとはだいぶ異なり、むしろ後の中世紀前期の甲冑との関連性を感じさせます。

イラスト:渡辺信吾

ヘルメット

イラスト:渡辺信吾

円形の兜鉢にほお当と、うなじを守る垂れが付く。兜鉢とほお当の接合部には、耳を出す穴があるのが特徴的だ。扇状の突起は士官であることを示すもの。

4~5世紀の甲冑2:ゴート族

ゴート族はドイツ東部に居住していたゲルマン民族の一派であり、4世紀にローマ領内に押し寄せました。いわゆる「ゲルマン民族の大移動」です。ローマ滅亡の原因の一つとされますが、傭兵としてローマ防衛にあたった側面もあります。

イラスト:渡辺信吾

ヘルメット

イラスト:渡辺信吾

ヘルメット(兜)は後期ローマのものと似ていて、円すい形の兜鉢にほお当が付いている。単純な半球形のヘルメットもあった。

7世紀の甲冑:アングロ・サクソン人

アングロ・サクソン人とは、5世紀頃にイングランドに侵入し、最終的にはその支配者となったゲルマン系民族の総称です。彼らが用いた甲冑も、かつてイングランドを統治していたローマの文化から強く影響を受けていました。

イラスト・渡辺信吾

ヘルメット

イラスト:渡辺信吾

アングロ・サクソンの武具でも有名なのが、アングロ人の墓から出土した面付きヘルメット(兜)だろう。これはローマ軍団の騎兵用ヘルメットが原型となっている。ただし、この種のヘルメットは儀礼用で、実戦には使われなかったという説がある。

9~10世紀の甲冑1:ヴァイキング

ヴァイキングはスカンジナビア半島に起源を持つ海賊達のことで、9世紀から11世紀にかけてヨーロッパ全域を荒らしてまわりました。彼らの武装は非常に簡素なものでしたが、その後の中世ヨーロッパにおける武器、甲冑の原型となっていきました。

イラスト:渡辺信吾

ヘルメット

イラスト:渡辺信吾

目の周囲を守るアイマスク状の面ぽおが付いたヘルメット(兜)。周囲に鎖を巡らして顔全体を守るタイプのものもあった。

9~10世紀の甲冑2:フランク王国

8世紀に創出されたフランク王国騎兵部隊は、ローマ滅亡以降、西洋における本格的な騎馬戦闘部隊でした。騎乗したまま槍で戦う彼らの戦法は、その後の西洋騎士の戦術に多大な影響を与えています。

イラスト:渡辺信吾

ヘルメット

イラスト:渡辺信吾

8~9世紀のフランク王国騎兵のヘルメット(兜)は、傘状の末広がりの形状だった。図は当時の絵画から推測したものである。

スケイルアーマー

イラスト:渡辺信吾

フランク王国の騎兵はホーバーク(鎖帷子)と並んで、スケイルアーマー(うろこ鎧)も着用した。これは布地(あるいは革)にうろこ状の札を重ね合わせて縫い付けたものである。

ヴァンブレイス

イラスト:渡辺信吾

文献資料によれば、ビザンツ帝国式の鉄製ヴァンブレイス(前腕当)も着用したようだが、そう多く使われたという記録は残っていない。

武器や鎧のディテール

ヴァイキングの北欧神話モチーフのように、装備品に特定のデザインを施すことで、キャラクターの出身地や民族、時代背景や経済状況までさまざまなバックボーンを演出することができます。

イラスト:森崎達也

 

ファンタジーイラスト・描き方のコツ

ローマ風女性兵士

アルファベットのS字を意識したポーズにすることで、画面を広く使うことができ、女性の柔らかさをより強調できます。

イラスト:森崎達也

ゴート族戦士

マントは普通柔らかい布なので、複雑な形に動きます。一見どこから描いていいのか混乱してしまいがちですが、まずマントを一枚の面として捉えて、描こうとしている部分が風によって変形して、どの方向を向いているのかを考えると描きやすくなります。

イラスト:森崎達也

マントは普通柔らかい布なので、複雑な形に動きます。
一見どこから描いていいのか混乱してしまいがちですが、まずマントを一枚の面として捉えて、描こうとしている部分が風によって変形して、どの方向を向いているのかを考えると描きやすくなります。

アングロ・サクソン人戦士

甲冑や衣服、キャラクターにキズや汚れを描き込むことで、戦場の臨場感を演出できます。写真の資料だけでなく、実際の衣服なども参考にすると、より具体的なイメージが持てるため、イラストのリアリティーが増します。

イラスト:森崎達也

キャラクターの性格や戦い方によって、傷つき方を変えるのも面白いです。彼の場合、装備もボロボロですし、剣もなくしています。一見冷静そうですが、意外と後先考えずに突撃するタイプなのかもしれません。

ヴァイキング戦士(毛皮着用)

甲冑のデザインには、ライオンやオオカミなど、動物のモチーフも多く登場します。動物の顔の簡単な捉え方を知っておくと役に立ちます。

 

イラスト:森崎達也

動物の顔の捉え方

甲冑のデザインには、ライオンやオオカミなど、動物のモチーフも多く登場します。動物の顔の簡単な捉え方を知っておくと役に立ちます。

イラスト:森崎達也

犬やオオカミの顔は四角形を基準に考えると分かりやすいです。

イラスト:森崎達也

ライオンは六角形の輪郭に大きな鼻とあごが特徴です。

ヴァイキング戦士(裸の狂戦士)

兵士がみな高価な甲冑を購入することができたわけではなく、中にはほとんど裸で戦場におもむく戦士もいました。少し寒そうですが、勇猛さは際立ちます。

イラスト:森崎達也

人体の捉え方:筋肉

イラスト:森崎達也

筋肉は各部位ごとに流れがあるので、その流れを意識するとイキイキとした線を描きやすくなります。甲冑は人体に合わせた構造になっているので、甲冑を描く上で人体に関する知識は大切です。

フランク人女性戦士

アクセサリーを装備させたり、衣服のすそ・袖の広がり方、ウエストの位置、全身のシルエットなどで女性らしさを演出することができます。男女のファッションの違いに注目してみましょう。

イラスト:森崎達也

スケイルアーマー(うろこ鎧)の札は模様としてパターン素材で処理してしまうこともできますが、札の並び方によって人体の起伏を表現することもできます。こういった細部を書き込むことが甲冑を描くときの醍醐味だともいえます。ただし、描きすぎると線で全体の形をつぶしてしまうので、注意が必要です。

本書ではこのほか、より詳細な描き方のコツや、甲冑の着用方法も紹介しています。

※4~10世紀の甲冑イラストは、資料となる詳細な説明図・現存する甲冑がほとんどないため、文献に基づき推測で描かれているイラストが含まれます。

※このページのイラストは実際の甲冑を元に、ファンタジーイラストとしてアレンジを加えたものであり、歴史上使用されていた甲冑とは異なる表現が含まれます。

 


<玄光社の本>

西洋甲冑&武具 作画資料

著者プロフィール

イラスト、文・渡辺信吾 イラスト・森崎達也

渡辺 信吾(わたなべ・しんご)

武蔵野美術大学卒。デザイン事務所ウエイドに所属するイラストレーター。甲冑・軍用機などミリタリー関連のイラストを数多く手掛ける。現在、『歴史群像「武器と甲冑」』(学研プラス)、『スケールアヴィエーション「巨人機の時代」』(アートボックス)を連載中。

 

森崎 達也(もりさき・たつや)

株式会社ウエイド所属。
株式会社ウエイド:www.wade-japan.com

書籍(玄光社):
西洋甲冑&武具 作画資料


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