芸術書の宝箱 ジュンク堂書店 池袋本店でクリエイティブな一冊に出合う

日本では書店の減少が叫ばれて久しいが、一方で品揃えの良さなどで固定ファンを抱えている人気書店も多い。コロナ禍が開けつつある今、とくに東京都内の大型書店は、どこもお客さんで賑わっている。

こんにちは、写真家の鹿野貴司です。僕も写真家という立場上、写真集コーナーがある大型書店のそばを通ると、つい時間が許す限り書棚の中身をあれこれ眺めてしまう。また読書も年間50冊をノルマにしているので、新刊やベストセラーのチェックも欠かせない。

そんな僕に、編集部から「書店を取材してみませんか?」という提案があった。PICTURESの運営元は僕の書籍を出版している玄光社だが、ネットよりも実店舗で売れている本が珍しくないのだとか。そのような売れ方の場合、発売と同時に購入した著者のファンよりも、書店でその本に出合って購入した読者が多かった可能性がある。良書と出合えるという点こそが実店舗のメリットであり、いくらネット書店が翌日配送や送料無料になってもかなわない点だ。

そこで担当編集者と僕で選んだ取材先がジュンク堂書店池袋本店(以下池袋本店)。売場面積は約2000坪で、東京都内では最大。全国でも最大級の広さを誇る。広いということは品揃えも豊富で、在庫は写真やイラストをはじめとする芸術書だけで約55000冊。店舗全体では約150万冊というから驚きだ。

ジュンク堂書店 池袋本店は、1997年にオープン。2001年に増床し、現在の規模になった。客層は幅広いが、男女比は3:2くらいでわずかに男性客が多いそうだ。

蔵書数はなんと約5万5千冊!
芸術書フロア(9階)

最上階・9階の芸術書フロア。大型書を扱うためか、他のフロアより書棚と書棚の間が広いように感じた。

僕は以前、西武池袋線沿線の学校で非常勤講師を務めており、帰り道は決まってここの1階にあるリトルプレス(著者の自主制作や、小さな出版社が発行した少部数本)のコーナーと、9階の芸術書フロアに立ち寄っていた。探している本があると9階から他のフロアへエスカレーターで下りるのだが、売場ごとに雰囲気が違うところに、本好きとしてはある種の楽しみがあった。

3年ぶりにその芸術書フロアを訪れると、広くて居心地のよい雰囲気は変わらず。一方で品揃えはしっかりと今の売れ筋をフォローしていた。以前置かれていた僕の写真集はさすがに見当たらなかったが、代わりに2022年9月に上梓した『いい写真を撮る100の方法』が棚差しされていた。雑誌コーナーやレジのある1階や、コミックフロアである地下1階ほどの混雑ぶりはないが、真剣に書棚を眺める客がちらほら。書棚と書棚の間隔が広いこともあり、いい本ないかなぁ……と思いながら回遊するにはちょうどいい雰囲気だ。

写真集コーナー。写真が傾いているのではなく、棚に傾斜がついている。
写真に関する読み物や技法書も充実。

芸術書フロアで扱うジャンルは写真やイラストをはじめ、美術、音楽楽譜、工芸、デザイン、書道、映画、演劇、伝統芸能と幅広い。さらに洋書と地方出版物もこのフロアにある。もっとも売れるジャンルを芸術書担当小林ゆかりさんに伺うと音楽関係の本だという。ちょっと意外だった。

「すぐ近くにある東京音楽大学の学生さんが専門書を買われるんです。さらに最近はアーティストが書く小説もジャンルとして確立されていて、ファンの方が買っていかれますね。そこで新刊が出たときは著者のパネルを展示をしたり、購入特典としてポスターをお渡ししたりしています」

池袋本店はフロア担当者の裁量が大きく、売場のアレンジや販促活動、イベントも来客の反応や出版社からの提案をもとに考えているという。美術書フロアにはギャラリースペースがあり、ここでは東京音楽大学の指揮科が企画するかたちで時折、演奏会を催しているそうだ。

一方、近年売れ行きを伸ばしているのはイラスト。画集のほか、描き方やテクニックを解説する本も売れているという。SNSや同人誌から火がつく、いわゆる絵師”といわれる作者も多く、そうした作者の場合は同人誌の復刻版を扱うこともある。流通に乗らない本でも積極的に扱う池袋本店のスタイルは、1階にリトルプレスのコーナーがあることからもわかる。また購入特典として池袋本店独自のペーパーを作者に書き下ろしてもらうこともある。

作品展や演奏会を開催しているギャラリースペース(9階)

フロアの一角にあるギャラリーでは、美好よしみさんの作品集『ShowCase』(玄光社)の重版にちなんだ展示が行われていた。作品は販売されており、カバーに使われた作品は、エディション1(つまり1点モノ)ですでに売約済。

もっともイラスト関連は間口が広がり、美術書フロアだけではカバーしきれない状況。マンガファンとの親和性が高そうな画集や書籍に関しては、地下1階のコミックフロアに置かれている。僕個人はマンガをほとんど読まないので、今まで立ち寄ったことがないフロアだが、今回訪れて芸術書フロアとは対照的な雰囲気に圧倒された。書棚と書棚の間隔は狭く、壁にはペタペタと原画が貼ってある。これは日本文化が好きな外国人観光客は喜ぶだろう。

 

コミック・ゲーム攻略本フロア(地下1階)

コミックフロアにある画集と技法書のコーナー。
人気のイラストレーターの画集や設定資料集
たくさんのイラスト技法書や画集が、内容や目的別にきちんと分類されている。

 

書店員さんインタビュー

芸術書フロアに話を戻すと、写真に関してもかなりの書棚を確保。硬派な写真集からテクニックを解説する本、僕の著書『いい写真を撮る100の方法』のような関連書籍まで幅広くカバーしている。都心の大型書店で写真集コーナーを覗くとアート寄り海外寄りという傾向を感じるが、池袋本店はどちらかといえば一般の写真愛好家を対象にしている印象を受ける。以前からよく売れているのは廃墟の写真集で、美しい風景を収めた写真集や、SNSで話題の本が売れることもあるという。

しかしこれだけフロアが広いと、仕入れのチョイスも大変そうである。もちろんそれはフロアにいる担当者の仕事で、日々さまざまなアンテナを張り巡らせている。芸術書フロアがカバーする領域は広く、そして深いのだ。ではフロア担当者が個人的に推す本はどんな顔ぶれなのだろうか。今回取材に対応してくださった芸術書担当・小林ゆかりさんと菅沼啓紀さんにおすすめを聞いてみた。

大学時代、サークルで声楽に取り組んでいたという菅沼さん。池袋本店では新人はまずレジに配属されるが、その後は、本人の経歴や特技によって、それに関連したフロアへ配属されるのだとか。

池袋本店スタッフ・菅沼さんがオススメする書籍

『オリヴィエメシアンの教室』ジャンボワヴァン著/小鍛冶邦隆監修/平野貴俊
アルテスパブリッシング8000円+税
20世紀を代表する作曲家といわれるメシアンが、パリ国立高等音楽院で多くの音楽家を育てた様子を綴ったドキュメンタリー。怒濤の744ページ。

『関係性の美学』ニコラブリオー著/辻憲行
水声社3200円+税
90年代に突如現れたリレーショナルアートを読み解くための一冊。

 

池袋本店スタッフ・小林さんがオススメする書籍

お話を伺った小林さんオススメの美術の入門書。

『死ぬまでに観に行きたい 世界の有名美術を1冊でめぐる旅』
山上やすお
ダイヤモンド社1900円+税
発売5日で重版という2023年11月発売のベストセラー。著者の山上さんは旅行添乗員のかたわら、学芸員資格を持つアート系YouTuber「こやぎ先生」としても活躍。

『学芸員しか知らない美術館が楽しくなる話』
ちいさな美術館の学芸員
産業編集センター1600円+税
著者はnoteで多くのファンを抱える現役学芸員。美術館の舞台裏や楽しみ方、学芸員の仕事に関するコラムが待望の書籍化。

ジュンク堂書店池袋本店 売れ筋の芸術書は?

アートをわかりやすく解説する入門書も、最近の売れ筋のひとつ。取材時は彫刻を学んだ美術家であり、X(Twitter)では現代美術を題材にしたマンガを投稿するパピヨン本田さんのポップアップコーナーが設けられていた。アンディウォーホルや寺山修司から、草間彌生、バンクシーまで現代美術をわかりやすく、そしておもしろく解説している『美術のトラちゃん』(イーストプレスより2023年9月発行、2800円+税)と、美術の歴史を変えたアーティスト23人をマンガで解説する『常識やぶりの天才たちが作った 美術道』KADOKAWAより2023年10月発行、1500円+税)、2冊の近著はどちらもヒット中だ。

小林さんと菅沼さんに売れ筋の写真集をチョイスしていただいた。

『男子部屋の記録』
小野啓
玄光社2300円+税
男子90人のポートレートとその生活空間を、3年間にわたって撮影。写り込んでいるものが住人のキャラクターを静かに物語る。

『まちのねにすむ』
原啓義
みらいパブリッシング1500円+税
被写体は東京の繁華街を生きるネズミたち。僕も写真展を拝見したことがあるのだが、思わず作者の原さんに「どうやって撮ったんですか?」と尋ねてしまった。気になる人はぜひ本書を。

『何気ない日常をアニメチックに。』
Shota
エムディエヌ2000円+税
懐かしさを感じる日常風景を撮影。レタッチでアニメ風に表現するShotaさん初の写真集。そのレタッチ術も披露している。

 

会計はすべて1階フロアで(1階)

便利なセルフレジあり

ちなみに大型書店といえば各階精算が一般的だが、池袋本店はレジが1階のみ。買い物カゴで運んで会計を済ませる。フロアをまたいで本を選んでも、会計はまとめて1回で済むのは便利だ。また6台のセルフレジが設置され、有人レジよりも列が進むのが早いように見える。

セルフレジは画面が大きく、初めてでも扱いやすい。購入点数が少なかったり、カバーが不要という場合にはセルフレジを選ぶほうがよさそうだ。

 

買った本を、お茶しながらすぐに読みたい!
カフェスペース「MJ BOOK CAFE」(4階)

4階の人文/教育・心理フロアの奥には「MJ BOOK CAFE」がある。買った本や雑誌をすぐ読みたいときにちょうどいい。未精算の商品を持って入店することはできないが、入口に買い物カゴを置くスペースがある。

 

予期せぬ一冊と出合える書店

1時間ほどで終わるかと思っていた取材は、小林さんと菅沼さんから「この本もおもしろいですよ」「これも売れてます」と次々に本を紹介され、気がつけば2時間以上が経っていた。池袋本店はまさに予期せぬ一冊と出合える本のデパート”だ。時間が許せばもっと滞在したかったが、よく考えれば背中のリュックは取材用の機材でいっぱい。改めてリュックを空にして来ようと思う。

他の写真家の写真集を見て勉強する筆者。そろそろ次の写真集をつくりたいなぁなんて思ったりしていることはナイショである。

 

ジュンク堂書店池袋本店
https://honto.jp/store/detail_1570019_14HB320.html

X(旧ツイッター)
https://twitter.com/junkudo_ike

著者プロフィール

鹿野貴司

1974年東京都生まれ。多摩美術大学映像コース卒業。さまざまな職業を経て、フリーの写真家に。広告や雑誌の撮影を手掛けるほか、ドキュメンタリー作品を制作している。写真集『感應の霊峰 七面山』『日本一小さな町の写真館 山梨県早川町』(平凡社)ほか。著書「いい写真を撮る100の方法(玄光社)」

ウェブサイト:http://www.tokyo-03.jp/
X(旧Twitter):@ShikanoTakashi
Instagram:@shikanotakashi

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