「恐怖の対象に例外をなくしたかった」新作誕生秘話と創作の源泉を語る。梨×大森時生『6』発売記念トークイベントレポート

ホラー作家・梨氏とテレビ東京プロデューサー・大森時生氏による「6」発売記念トークイベントが2023年7月17日に阿佐ヶ谷ロフトAで開催された。
異なるメディアで「不気味な怖さ」を追求する二人がテレビ番組「このテープもってないですか?」などでタッグを組んだきっかけや梨氏の小説「6」(玄光社)の裏話などを語り合った。

100人近いホラーファンが集結した当日。二人の軽妙なトークに時折笑い声も漏れていたが、やがてさまざまな角度から語られる「恐怖」と「不気味さ」の連想に、会場は一種異様な雰囲気に包まれていった。トークイベントの模様の一部を本レポートではお伝えする。

▶ツイキャス配信視聴でトークイベントをアーカイブ視聴可能:
【購入期限】2023年7月24日(月)21:59まで。【視聴期限】2023年7月24日(月)23:59まで。

「6」梨・著
会場には完売による増席分も含め、多くのホラーファンが詰めかけた

ステージには大森氏の姿が。梨氏は姿は出さずに、暗幕の向こうから声だけの出演となった。大森氏が梨氏と親交を結ぶきっかけからイベントは始まった。2021年に梨氏が自身のnoteに投稿し、ネット上で話題となった怪談『瘤談』に衝撃を受けたという。

梨氏は姿をみせず声のみの出演となった

主体をぼかすことで、視る側を巻き込む怪談がうまれる

大森時生氏(以下、大森):梨さんのことを知ったきっかけは『瘤談』でしたが、衝撃的でしたね。『忌録: document X』(著:阿澄思惟)というホラー書籍がありますが、その一歩先をいく人が現れたと思いました。
「語り手」が信頼できない形式をとった怪談はよくありますが、梨さんの作品は見る側に「語り手」の想像を委ねている印象があります。

梨氏(以下、梨):インターネット怪談って語り手が誰かわからず、信頼できないんですよね。「誰がその話を書いた(集めた)のか?」主体をぼかすことができる。

大森:信頼できない話の断片をつなげることで、最終的に視る側が巻き込まれるフォーマットですね・・・。
こんな感じのじっとりとした会話がつづきます(笑)

:(笑)大森さんから初めて連絡をいただいたのって『滑稽』でしたよね。

大森:そうですね、お笑い芸人Aマッソさんのライブ・イベント『滑稽』(※2023年公演)がきっかけでした。驚かされたのが、梨さんの民俗学や社会学的な知識への造詣の深さなんですが、どうやって身につけたんでしょう。

:地方の祭事に参加して、フィールドノートを取るといった研究をしていたんです。民族学的な要素をバックグラウンドにした怪談を読むことも好きで、読者としても研究対象としても接しています。

大森:新作小説『6』でも民俗学的な背景や思想を組み込んでいますよね。

世間話でもするように、さまざまな角度から「恐怖」を語る2人の雰囲気に会場は呑まれていく

読み終わって、この人ホント嫌なこと考えるなと思った

大森:『6』の話を続けますが、今作を読み終わってこの人ホント嫌なこと考えるなと思いましたね(笑)
前作「かわいそ笑」(KADOKAWA)に仕掛けられたギミックにも感心しましたが、まだ読者は他人事として逃げることができた。今作は逃げようがないという。

:恐怖の対象に例外をつくりたくなかったんです。
今作は短編の6話構成でどうか?という話が最初に玄光社からあって。6という数字から何が連想できるかを考えると、ある着想が浮かんで。そこから各章を考えていくと”生きている”人間全てが逃げることができない「ある恐怖」に行き着いたんです。

大森:その話は後ほど詳しく聞きましょう。もうひとつ思ったのは、前作と『6』の間にもうひとつ作品があるんじゃないか?と思えるくらい、今作は直球の小説だなという印象をもちました。

:今作はギミックよりも怖さの描写を直球で伝えた方がいい、あとはこれまでの作品に対する評価の裏をいきたかった思いはありましたね。

あと、余談ですが『6』の表紙デザインを見たときに「あぁ、これは玄光社の営業さん大変だろうな」と気づきましたね(笑)

「6」表紙デザイン

大森:え、どういうことですか?

:「梨 6」で検索すると、美味しそうな果物の「梨」しかでてこないからです(笑)

大森:なるほど、パブリックサーチが難しいという。読者の感想もあまり見れてないのではないですか?

:見れてないです。でも、そこを狙ったところではあって。今作の感想をWeb上で共有せず完結してくれると嬉しいな、と。

大森:他の読者の感想をみて、安心することってありますもんね。
ついに安心を防ぐ段階まで入りましたか(笑)

:事前にそこを潰しておきたかったですね(笑)

大森氏の隣に積まれた石には「拠点C」の文字が。「6」読者には伝わる遊び心だ

※下記には『6』本編についての具体的な記載を含みます。ネタバレを見たくない方はクリックしないでください

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すべての人間に絶望を伝えたいというメッセージだった?

大森:もう少し『6』について深掘りをしましょうか。今作の根底をなす「6」に関連したある概念。その概念をモチーフとした6つの物語を行き来する機構としてエレベーターが登場しますが、なぜエレベーターなんでしょうか?

:階段やエスカレーターだと1Fと2F。6Fと5Fといった隣接した階の行き来しかできないじゃないですか。
エレベーターは1Fから6F、5Fから2Fとランダムに行き来できる。『6』の各話は屋上から1階まで、建物のフロアをイメージした構成になっていますが、隣接したフロア以外にもシームレスに行き来できる媒介としてエレベーターが面白いな、と思ったんです。

大森:なるほど。最終話の「ONE」を読んだ後に物語の全体像がわかって。すべての人間に対しての救いのなさを感じました。
そこが、梨さんが先ほど話していた逃れられない「ある恐怖」だと思うんですよね。伝えたいメッセージとしてその恐怖というか、絶望があったんでしょうか?

:そうですね。分からないからこそ希望的にも捉えられるある概念のことを、救いのないもの。むしろ、そこから本当の苦しみが始まる世界として伝えてみたいという思いはありました。

:あと、今作は最初に「6」というタイトルが決まっていたんです。これまでは最後にタイトルを決めることが多かったので。

大森:屋上から1階までが各章のタイトルになっていますが、最後が「1階」で「地下」ではなかったのはなにか理由があるんですか?

:「地下」から連想されるある場所。そこにすら辿りつくことができないという絶望を伝えたくて、本編では屋上から1階を取り上げたという部分はありますね。


他人からみると笑い話でも、本人は切実。そのズレが生む怖さ

大森:今作でも、過去にご一緒した仕事でもそうですが、梨さんの選ぶ言葉には時折くすっとするユーモアが出てくるじゃないですか。そういう言葉はどこから出てくるんですか?

:身近な用語の方が伝わりやすいとは思ってますね。
例えば「”お疲れ様です”は”憑かれる”を連想して縁起が良くないので、”お元気様です”と言おう!」って話があったとするじゃないですか。
傍からみると滑稽でも、本人が切実に言っているとしたらそのズレからくる怖さって、きっとあると思うんです。

大森:笑いが恐怖に変わったり、恐怖を意図したシーンで笑いが起こったりすることはよくありますよね。

両名ともジャンル問わず恐怖作品への造詣は深い

怖さや不気味さは細分化されていないから、固有名詞でしか伝わらない

大森:梨さんにとって「恐怖」や「不気味」との出会いはなんでしたか?

:「洒落怖」に代表されるインターネット怪談ですね。学校の怪談や京極夏彦作品といった、王道的な怪談に触れたのは遅かったです。
他は私も寄稿しているSCP財団(※共同創作コミュニティサイト)などでしょうか。

大森:最近良かったホラーコンテンツってありますか?

:サンリオピューロランドで開催されているホラーイベントは良かったですね。正直、高をくくってましたが「オバケン」というお化け屋敷制作集団がプロデュースしているのもあって、しっかり怖かったです。

大森:私は映像作品を見る機会がやはり多くて。中でも『aftersun/アフターサン』(※注:2022年公開のアメリカ映画)はミステリアスで底しれない怖さを感じる良作でした。
梨さんはA24(※注:ニューヨークの映画/テレビ番組の製作・配給会社)の作品はどうですか?

:2019年に公開された映画『ミッドサマー』は衝撃的でしたね。私のTwitterアイコンにある花輪のイラストは『ミッドサマー』を見た後に加えたものです(笑)

大森:梨さんとは趣向があいますが、怖さ・不気味さってジャンルとして細分化されていないんですよね。「〇〇っていいよね」「△△は怖かった」とか、固有名詞でないと伝わらないケースが多いと思います。

これからの創作について

(※参加者からの今後やってみたい事という質問を受けて)

大森:まだ何も決まっていませんが、私は一度がっつりフィクションを作ってみたいなと思っています。

:私はSNSで投稿したことがありますが、リアルイベントで私の文章や世界観をどのように形づくるのか、出来たらいいなと思っています。

大森:お化け屋敷とかやってみたいというのは話しましたね。

:投稿してから数十分後に大森さんから「いいですね!」と連絡がきて。フットワークの軽さに驚きましたね(笑)

大森:リアルイベントや不気味さをもっと追求した公演など、今後も二人で色々やってみたいです。

このほかにも様々な質問への回答。ふたりが最初にコラボした作品である『滑稽』非公開企画書の投影、これまでに最も衝撃を受けたホラーコンテンツなどが語られた。

▶ツイキャス配信視聴でトークイベントをアーカイブ視聴可能:
【購入期限】2023年7月24日(月)21:59まで。【視聴期限】2023年7月24日(月)23:59まで。
※現在は購入・視聴終了済


「6」梨・著

 

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