写真撮影の道具たるカメラはその誕生以来、様々な進化を遂げてきました。それはカメラ自体が持つ機能だけでなく、被写体と直接相対するレンズも同様であり、長い歴史の中で、多くの交換レンズが生まれ、今なお撮影に用いられています。昨今、マウントアダプターの普及に伴って、最新のカメラで古いレンズを使う楽しみ方も広く知られるようになりました。
「オールドレンズ銘玉セレクション」では、国内外のオールドレンズを外観写真や作例とともに紹介。そのレンズが開発された時代における新規性や立ち位置、技術的な背景など、オールドレンズにまつわる知識を深めることができる一冊となっています。
本記事では第3章「再評価される銘玉」より、「Kern MacroSwitar50mmF1.8AR」の作例と解説を紹介します。
世界最高峰の標準レンズといわれた「Kern MacroSwitar50mmF1.8AR」
マクロスイターを生産するケルンはスイスの光学メーカーでムービーカメラ用のレンズを中心に生産していた。アルパ用のマクロスイターは唯一スチールカメラ用に作られたレンズシリーズでF1.8、後継のF1.9、M42マウントの「C」、非マクロのアーラウスイター、オートスイターの5種類が存在している。
これらのシリーズを合計しても生産本数は2万5千本前後で希少なレンズシリーズだ。これはアルパが非常に高価で流通数が少なかったことが主な理由だ。マクロスイターはマクロレンズとしては明るくF1.8クラスの開放値やアポクロマートといわれるその描写力などに定評があり一部では「標準レンズの最高峰」という評価もある。
ミラーレスカメラが登場したことで手軽に使うことができるようになったが、フィルム時代は高嶺の花のレンズだった。マクロ域の事情に高い描写力と開放値の明るさからくる浅い被写界深度があいまって被写体を独特のやわらかさで捉える。