人の頭の中にある概念や構想、いわゆる「コンセプト」を他者に伝えようとするとき、絵の力は強力に作用します。遠い将来や、開発前の製品など、具体的な像が定まらない目標に向かうことはとかく困難になりがちですが、「目的を達成した後の世界」を絵として具体化し、他者と同じイメージを共有することで、一つの完成形や目標に向かって、迷いなく進むことができるようになるのです。
「トミーのコンセプトアート教室 マンガと添削で楽しく学べる!」では、コンセプトアーティストの富安健一郎さんが、コンセプトアートの考え方と始め方、上手なコンセプトアートの描き方を、佐倉おりこさんのマンガとともに詳しく、かつ、わかりやすく解説しています。
後半では、事前に公募したコンセプトアートの添削や、富安さん自身によるコンセプトアートの制作手順も紹介。初めてコンセプトアートを描こうと考えている人にも実用性の高い内容となっています。
「この本のコンセプトは、読んでくれたあなたに、『コンセプトアートを描いてみたくなってもらう』こと。」(「はじめに」より引用)
本記事では、PART1「コンセプトアートを知ろう」より、コンセプトアートとは何か?についての説明を抜粋して紹介します。
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コンセプトアートってなんだろう?
Q. コンセプトアートとはそもそもどんなものなのでしょうか?
何かをやろうと思ったときにいちばん大事なこと(コンセプト)を絵(アート)として表現したものがコンセプトアートです。
映画やゲームに限らず、誰かに向けたものを作る場合、やりたいことのあるイメージを制作チームのメンバー間で共有できないと、先を進むことができません。
思ったことがそのまま100%別の人に伝わるなら良いんですけど、人間そうはできていません。なので、言語やデザインなど様々な手段を使って意図を伝えようとしていますよね。
その手段の一つとして絵を使うということが、コンセプトアートなんです。
一番根底にあるのは、「誰に」「何を」伝えて、その影響を受けて「どうなってほしいか」。これをまとめて、絵に起こしていくのです。
Q. コンセプトアートは、誰かのために作るものなのでしょうか?
そうです。作品としてのイラストや絵画と、コンセプトアートの決定的な違いは、誰かのために作っているかどうかです。
極論、コンセプトアーティストは作家ではなく、デザイナーに近い存在です。自分の欲求を満たすために絵を描いているわけではなく、誰かのために絵を描きます。
もちろん、自分用に描く絵があってもいいんですよ。ただそれは、あくまで一つの作品です。それ自体が完成形になるものです。コンセプトアートはそういった作品とは違い、誰かに何かを伝えるための、手段です。
もちろん、世界中のコンセプトアーティストがみんな僕みたいな考え方ではないと思いますけれども、コンセプトアートというものを突き詰めて考えていくと、そういう考え方にならざるを得ないと思います。
Q. 映画やゲーム以外にコンセプトアートが活躍する場所は、具体的にどこでしょうか?
主に映画とかゲームとかコマーシャルなどのエンターテインメントと呼ばれている分野での活躍はもちろん、それに加えて最近は、実際の都市開発、大型施設、工業製品、宇宙開発、といった分野でも活躍しています。
面白いものだと、ウェブサイトの制作時にも活躍しますよ。一見、「そんなにビジュアルコンセプトいらないんじゃない?」と思われるかもしれませんが、サイトに訪れたお客さんがどういう気持になってほしいのかを考えるために、イメージをビジュアル化してみると精度が大きく上がるんですよね。
これはウェブサイトのデザインとは別物です。そのサービスを使った人がどういう生活をするのか、そういうことを絵に起こすんです。
宇宙開発で活躍する例もありますね。宇宙開発は、民間の企業が行います。ということは結局利益を出さないといけないので、多くの人に興味を持ってもらう必要がありますよね。そのためには当然、かっこいいビジュアルコンセプトを最初に打ち出したほうがいいんですよ。それがデザインであったり、PRの仕方であったりすると思いますが、どちらだとしてもコンセプトアートが絶対に必要になります。誰もが見てワクワクできるからです。他にも企業からの以来でロボットを作る際に、どんなロボットを作って、人類とどんな関係を築いていくかを考えるために、最初にコンセプトアートが必要になることもありますね。
誰かが考えていたアイデアを、どう実現化していくか。それをビジュアル面から考えていくんです。発想の手助けをしているイメージですね。だから絵を描くことももちろん大切ですが、もしかしたらそれと同じくらい話し合うことが重要かもしれません。