多くの領域における「技術」は、それぞれの分野において確固たる基本、基礎の上に成り立っているものです。
では、「絵の腕前を上達させたい」と思ったときに基本となる技術は何でしょうか。その一つとしてよく挙げられるのが「デッサン」です。描こうとしているものの形や構造、光の当たり方と陰影の出方をよく観察し、認識し、できるだけ正確に表現すること。それは現職の中にも改めて習うプロがいるほどに重要な技術です。
「比較でわかる初心者デッサンの教科書」では、基本的な図形から立体表現、透視図法、陰影のトーン、素材感、光沢、構図など、絵を描く上で基本的な知識を豊富な作例と図解で解説。改善前と改善後のデッサンを比較できる形で提示し「ありがちなミス」への気づきを促す構成となっています。
本書はアナログ画材でのデッサンを練習する主旨の書籍ですが、本連載ではデジタル環境での練習にも応用して使える知識や概念を中心に掲載します。
本記事では前回に引き続き、第4章「複数モチーフを描く」より、複数のモチーフを画面内に描くときのコツについての解説を抜粋して紹介します。
レンガとりんごを描く
明度の低いモチーフの手前に明度の高いモチーフがある場合のデッサンです。モチーフがくっついてしまったり、立体感を失ったりしないように注意しましょう。
セッティング
画面内で、りんごがレンガに重なるようにセッティングする。
上から見た図
りんごの影がレンガにかかるように右斜め上、前からの光になるライティングをする。
正面から見た図
レンガは3つの面が見えるようにセッティングする。
改善ポイント:モチーフの特徴
りんごの影をのばす
りんごの影をレンガまでのばすと、モチーフの位置関係が表現しやすくなる。
ヘタの影も表現する
ヘタは太めで黒く描き、りんごにヘタの影を落として空間を表現する。
りんごの描き方:りんごは球ではなく多面体
りんごは球体としてではなく多面体としてとらえて描くとよい。
全体の輪郭をラフスケッチし、床の影を含めて画面の構図を合わせる。
面の変わり目を意識しながらラインを引く。
面に陰影を乗せてベースの調子を乗せる。
接地面を暗さの基準として、床の影を描く。
全体の印象が合ったら、ガーゼを使って調子を整える。
ヘタを中心にして回り込みや細かい形を描く。
りんごの模様や反射光を描き、質感を表現する。
全体のバランスを見ながら、微調整して完成。
改善前
個々の立体を認識しないで調子を乗せてしまっている。
- アウトラインの処理が雑なため、りんごがレンガに食い込んでしまっている。
- りんごを擦ってしまったため、立体感を失っている。
- レンガのベースタッチができていないため、フラットな面になっていない。
- 見たままの影を描いたため、2つのモチーフの位置関係が表現できていない。
改善後
それぞれのモチーフが立体的で、位置関係も明確になっている。
- 手前のモチーフと重なる面は、グラデーションを丁寧に入れてフラットな面をつくっている。
- りんごの影が少しかかるように描いて、位置関係をわかりやすくしている。
- モチーフ間の部分に光を入れることで、2つのモチーフの空間を表現している。
- 擦らず、面の方向を正確に描くことで、立体感を出している。