多くの領域における「技術」は、それぞれの分野において確固たる基本、基礎の上に成り立っているものです。
では、「絵の腕前を上達させたい」と思ったときに基本となる技術は何でしょうか。その一つとしてよく挙げられるのが「デッサン」です。描こうとしているものの形や構造、光の当たり方と陰影の出方をよく観察し、認識し、できるだけ正確に表現すること。それは現職の中にも改めて習うプロがいるほどに重要な技術です。
「比較でわかる初心者デッサンの教科書」では、基本的な図形から立体表現、透視図法、陰影のトーン、素材感、光沢、構図など、絵を描く上で基本的な知識を豊富な作例と図解で解説。改善前と改善後のデッサンを比較できる形で提示し「ありがちなミス」への気づきを促す構成となっています。
本書はアナログ画材でのデッサンを練習する主旨の書籍ですが、本連載ではデジタル環境での練習にも応用して使える知識や概念を中心に掲載します。
本記事では、第4章「複数モチーフを描く」より、複数のモチーフを画面内に描くときに一体感を出すためのライティングと構図の作り方についての記述を抜粋して紹介します。
複数のモチーフを描く
複数のモチーフを同時に描こうとすると、逆に一体感は失われます。同じ台面に乗っているようにするには、描く順番がポイントになります。
改善前
描く順番がわかっていないため闇雲に描いている。
- 立体に合ったレタリングができていない。
- ガラスの丸い立体感が表現できていない。
- タッチが雑で質感を表現できていない。
改善後
下に敷いてある紙を最初に描き、描く順番を考えながら仕上げられている。
- 影の方向が合っている。
- ペットボトルの立体にレタリングがピタリとついている。
- 影ののび方や設置位置などを考えてセッティングされている。
カラーボールと紙コップを描く
固有色があるため、色味と白の2色の調子を表現する必要があります。それぞれの立体感に加えて、位置関係も意識しましょう。
セッティング
並列には並べず、カラーボールが前、コップが後ろにセットされていると描きやすい。
上から見た図
モチーフが2つある場合、手前に調子の強いモチーフを置くと描きやすくなる。
正面から見た図
モチーフの影が長く出るように、斜め上からライティングする。コップの影がカラーボールに重なるようにすると、前後関係を伝えやすくなる。
改善ポイント:モチーフの特徴
- 黒を強く乗せ、一番手前は彩度を高くする。
- 映り込みを反映する。
- 台面が反射して明るくなる。
- 飲み口の楕円と、底面の楕円の間にある二重楕円のズレを意識することで、手前から斜めに下がる角度を表現できる。
- 紙コップは下に向かって細くなっているため、円錐を逆さにして、途中でカットしたイメージで形を取る。
改善前
2つのモチーフの位置関係が表現できていない。
- 固有色の違いを描き分けられていない。
- ボールに反射するコップが映っていない。
- 影の方向が違っている。
- 並列にセッティングしたため、奥行きを感じない。
改善後
彩度の違いが明快で、モチーフの位置関係も忠実に表れている。
- 影がボールと重なることで前後の関係性が表現されている。
- 影の方向が一致している。
- モチーフの色の違いを見比べながら、彩度が調整されている。