多くの領域における「技術」は、それぞれの分野において確固たる基本、基礎の上に成り立っているものです。
では、「絵の腕前を上達させたい」と思ったときに基本となる技術は何でしょうか。その一つとしてよく挙げられるのが「デッサン」です。描こうとしているものの形や構造、光の当たり方と陰影の出方をよく観察し、認識し、できるだけ正確に表現すること。それは現職の中にも改めて習うプロがいるほどに重要な技術です。
「比較でわかる初心者デッサンの教科書」では、基本的な図形から立体表現、透視図法、陰影のトーン、素材感、光沢、構図など、絵を描く上で基本的な知識を豊富な作例と図解で解説。改善前と改善後のデッサンを比較できる形で提示し「ありがちなミス」への気づきを促す構成となっています。
本書はアナログ画材でのデッサンを練習する主旨の書籍ですが、本連載ではデジタル環境での練習にも応用して使える知識や概念を中心に掲載します。
本記事では、第3章「材質を表現する」より、材質感を出すための技術についての記述を抜粋して紹介します。
材質感を出す方法
トーンをつけるだけでは材質感は表現できません。明度・彩度の調整や、使用する鉛筆のかたさの選定がポイントになります。
改善前:全体を擦ってしまう
最初に全体を擦る描き方は質感が出ないため、短時間でデッサンを描き上げる場合以外では不適切。
- 調子を乗せすぎ、ロゴが見えなくなってしまっている。
- 擦ってしまったため、銀紙の質感が表現できていない。
改善ポイント:材質を見極めて表現する
さまざまなタッチを使って描くことで、そのモチーフの質感をよりリアルに表現することができる。
適切な鉛筆を選択し、明度の差をしっかりつけて描くことで、パッケージの紙と銀紙との質感を明確に差別化できている。
輪状のモチーフは正確な二重楕円
コップやテープなどの輪の形をしたモチーフは、斜めから見た場合、内側と外側の楕円のズレを意識して表現することが重要です。
改善前:二重楕円が狂っているデッサン
内側と外側の長軸を同じにして楕円を描いてしまっている。
マグカップのデッサン
- 穴の部分を黒く塗りつぶしてしまうことで立体感がなくなり、奥行きもなくなっている。
- 楕円にズレがないため、斜めから見たマグカップに見えず、不自然になっている。
改善ポイント:二重楕円の構造と調子
二重楕円を描くときは、描き順とズレを調整するのがポイント。改善ポイント 二重楕円の構造と調子
円柱を描いてから二重楕円を描く
二重楕円のズレを意識する
真上から見た製図(左)と斜めから見た製図(右)
回り込みには面の密度を使う
- 正面にくる部分ほど密度が低いため、調子が明るくなる。
- 円柱の側面をブラインドのように考えたとき、回り込むほど面の密度が高くなる。
養生テープのデッサン
アドバイス
テープやキッチンペーパーのように巻いてあるモチーフは、巻きの方向を示す線と、巻き終わりの部分を丁寧に描くことで質感が出る。