旅客輸送、物流、防災、救難、軍事など、様々な領域で活躍する航空機。「もしも空を飛べたら、何がしたいか」という人々の願いを具現化し、用途に特化した機体の機能美は、写真の被写体としてもきわめて魅力的です。
「飛行機写真の教科書」では、「飛行機写真」の定義から航空機の種類や運用に関する基礎知識、飛行機撮影に適した機材、撮影場所の選定をはじめ、季節や状況ごとの表現テクニックまで幅広くカバー。
一定の専門的な知識と高い撮影技術を必要とし、難易度が高めの撮影ジャンルではありますが、マスターすれば写真表現に大きく幅を持たせられることは間違いないでしょう。
本記事では、Chapter3「旅客機を撮る」より、「飛行機夜景」撮影時の具体的な設定やコツを一部抜粋して紹介します。
長秒時露光で高画質な飛行機夜景撮影
夜の空港は、照明や機体の灯火類などが際立って、フォトジェニックである。夜間の飛行機撮影では、超高感度撮影可能なカメラと明るいレンズが必需品だと思われるかもしれないが、適切なタイミングで三脚を使って撮影すれば、それほど機材のハードルは高くない。そのタイミングとは「飛行機が停止しているとき」である。
エンジン運転中の旅客機が一時的に停止するチャンスは基本的に3回ある。1回目はスポットからプッシュバックされてエンジンスタートし、タキシングを開始するまでの数分間。2回目は滑走路手前での待機、3回目は滑走路進入後、離陸許可が出るまでの待機である。このうち、2回目と3回目はほかのトラフィックがなければ、停止せずに離陸していくことも多い。飛行機が停止してさえいれば、三脚を使い長秒時露光すれば低ISO感度で撮影できるので、必ずしも高級機材である必要はない。ただし、停止時間は長くはないので、構図や操作は素早く確実にしたい。
撮影場所のイメージ図
ランプ地区の夜間撮影は、展望デッキからが撮影しやすい。
- 撮影のヒント
・プッシュバック~エンジンスタートまで停止する数分間が撮影チャンス。
・三脚を使用して長秒露光すれば、高級機材でなくても撮影できる。
○停止中
三脚を使用して8秒間露光したが、露光中も機体は静止しているため、低ISO感度で高画質に撮影できる。
×機体が動いた
上写真と同じくシャッター速度8秒に設定して撮影したが、露光中に機体が動き出したために、機体が大きくブレてしまっている。
ガラス越しの撮影
ガラス越しの夜間撮影は、忍者レフや暗幕などの反射避けを使用することで、ガラス面の反射を除去してクリアに撮影できる。
超高感度で飛んでいる飛行機を夜間撮影
今どきのデジタルカメラの進化はめざましく、夜間飛行する飛行機さえも撮影できるようになった。とはいえどんな条件下でも写せるというわけではなく、やはり夜間の動体撮影にはいくつかのポイントがある。
まず、超高感度撮影が可能なカメラと明るいレンズを使うことだ。夜間の空港周辺は非常に暗いため、カメラ性能への要求が厳しい。目安としてはISO感度12800~25600クラスで高画質が得られるカメラを使うことで、現時点では2000万画素クラスのフラッグシップ機が最適といえよう。レンズは明るいほうが有利だが、焦点距離が短いと撮影できる空港は極めて限られる。また、いくらISO感度を上げたり、明るいレンズを使ったとしても、完全な暗闇では灯火しか写らないため、周囲に街明かりがあるなど、地明かりのある都会の空港が有利だ。地方空港でも低い雲や霧が出ているときは地明かりを反射しやすい。夜間飛行する飛行機の撮影は、機材と撮影条件への依存度が高いのである。
撮影場所のイメージ図
夜間飛ぶ飛行機を撮るには、地明かりのある都会の空港がおすすめ。
- 撮影のヒント
・夜間撮影では、超高感度撮影ができるカメラと明るいレンズを使う。
・ある程度止めて写すには、シャッター速度を1/125~1/250秒に設定する。
シャッター速度:1/250秒
着陸機を1/250秒で撮影。着陸灯が明るいので、フレアやゴーストなどの有害光を抑えるコーティングを施したレンズが有利だ。
シャッター速度:1/8秒
中途半端にブラすより、1/8秒までシャッター速度を遅くすることで、地上の撮影者は止めて飛行機だけをブラして動感を表現した。
さまざまな夜景シーン
滑走路端に差しかかると、機体下面に赤や緑の色鮮やかな灯火類が映り込む。それを切り取るべく、200mmF2の明るい望遠レンズを使用した。
夜間飛行機撮影のポイントは、飛行機のシルエットが見えていることである。周囲が暗すぎると、ISO感度を上げても灯火類しか写らない。
流し撮りでスピード感を表現する
動体撮影において、スピード感を表現しやすいのは流し撮りである。飛行機だけは止まっていて、背景または前景がブレて流れるために飛行機が浮き出て見える撮影法だ。
撮り方はシャッター速度を遅めに設定した上で、被写体の動きに合わせてカメラを振るのだが、露光中はファインダーのブラックアウトにより被写体が見えないこともあり、うまく流すのは難しいものだ。シャッター速度は被写体の見かけの速度により変わるが、旅客機の場合1/60秒~1/30秒以下で流し撮りの効果が出てくる。
うまく流すコツは、少し離れた場所から機体の真横アングルを狙うこと。機体に接近しすぎたり、機体に対して斜めアングルだと、露光中に機体の大きさが変化する。そのため、その部分はどうしてもブレてしまうので、機体の一部しか止まらない。また、離陸時の機首上げ時は、カメラに対して横方向の動きに加えて、縦方向の動きも加わるため、流すのが難しい。もっとも、わざとブラして動感を表現することも1つの手法ではある。
撮影場所のイメージ図
真横アングルから狙うときれいに流しやすい。
- 撮影のヒント
・機体が斜めだと、露光中に見かけの大きさが変わり、一部しか止まらない。
・適切なシャッター速度は見かけの速さによる。
シャッター速度:1/8秒
離陸上昇シーンを1/8秒で流し撮り。背景の街明かりが大きく流れている。離陸時は横方向に加え、縦方向の動きが加わるので流しづらい。
シャッター速度:1/2秒
タキシングする機体を1/2秒で流し撮り。離着陸機に比べ、移動速度が遅いので、より遅いシャッター速度に設定する必要がある。
流しやすいのは着陸時
最も流し撮りしやすいシーンは着陸時である。速度変化が少ないし、機体まで距離があれば、見かけの大きさの変化も少ない。