イラストレーションで人物を表現する際には、描き込むところや省略するところの取捨選択、デフォルメと写実のバランスを考える必要があるでしょう。とりわけ「美少女」のイラストを制作する場合は、デフォルメの中に写実的な要素を加えて描写することで、女性らしいセクシーさを表現できます。体の一部をあえて写実的に描写し、肉体の質感を表現するには、強調したい部位の「肌」をいかにリアルに塗り込むかがポイントです。
「美少女イラストのリアルな肌の塗り方」では、女性キャラクターの表現について「どこに注意したらリアルに見えるのか」を切り口とし、各パーツの描き方、そして塗り方を詳細に解説。体の各部位が持つ特徴を示しつつ、表情やポーズの作例も複数パターン用意しています。
本記事では、「4.下半身の塗り方」より、視線を集めやすい「太もも」の描写に関する解説を抜粋してお伝えします。
太ももの塗り方を知ろう
太ももは女性特有の下半身の形を象徴する重要なパーツのひとつです。胸・おしりとともに、太ももや股から伸びる鼠蹊部(そけいぶ)は露出度が高く、視線を集めやすいというとても大事な部位です。
太ももの基本を知る
太ももの筋肉
女性の太ももを魅力的に描くときに、筋肉の理解は欠かせません。大まかな流れを意識して塗ることができるとリアリティが増します。特に臀筋群、縫工筋、内転筋群(恥骨筋、長内転筋、薄筋など)の位置と形状を覚えておくと役立ちます。また、股間から伸びる鼠蹊部を描き込むとセクシーな印象を強調できます。
内股の筋肉
足を広げた際に股間から伸びる筋肉の影をはっきりと描くことでセクシーさをより強調することができます。この影は長内転筋や薄筋の影響でできています。
光源の違いによる太ももの影
女性の太ももは全体的に丸みを帯びているため、柔らかな影をつけていきます。一部筋肉の流れに合わせて少しクッキリとした影を描き込むことでメリハリを出すことができます。股部分は局部に柔らかい影をつけ、太もものつけ根や鼠蹊部にはメリハリのある影を描き込みましょう。
影なし
光源に合わせて、どのように影を描き込むのか、影のないものと比べてみましょう。
光源:正面上
股間から両足に落ちる影の他、両サイドや内側に回り込む影を描き込みましょう。内側や鼠蹊部、股間の下側などに濃い影を入れることで立体感が出ます。
内股に筋肉の凹凸を少し描き込むことで、肉感が増してセクシーになります。
光源:左上
基本的には光源:正面上と同様に、立体に合わせて影を描き込みます。鼠蹊部や股間の下側、太ももの影側の端に濃い影を描き込みましょう。
- 光源側の端にエッジライトを描き込むことで光源の方向と立体感を強調することができます。
- 影のフチに少し明るい色を入れて反射光を表現すると立体感が増します。
- 光源の反対側の端の影が一番濃くなります。
斜め前
正面とは異なるアングルでの塗り方を見てみましょう。特に斜め向きは正面との影の範囲の変化に注意してください。正面のときには見えなかった影に気をつけましょう。おしりへと続く丸みを表現するために、おしり側は特に柔らかいグラデーションを入れます。
光源:正面上
立体感を出すために、右足の後側や内股に濃い影を入れます。右足のみ筋肉の凹凸を描き込みましょう。
光源:左上
左右で少し影のグラデーションの入れ方が異なります。太ももの形状をきちんと意識して影を描き込みましょう。
右足の太もものつけ根から後ろ側にかけての部分が最も暗くなります。
ココに注意!
太ももに影をつけるときにやってしまいがちなのが、均一なグラデーションの影をつけてしまうことです。太ももは上から見ると単純な円や楕円の形をしていません。上から見た形を把握していれば、円柱のような太ももになってしまうことを防げます。
様々なポーズによる太ももの描き方
ポーズやアングルごとの塗り方を見てみましょう。真っ直ぐ立っているときとは明らかに異なる点に注目しましょう。
横座り
内股の凹凸を意識して影をつけます。おしりや股間は柔らかさを意識して着色しましょう。
前傾姿勢
前傾しているため、体の表面の広い面積が影になります。筋肉の動きや回り込みの陰影などを意識して影を入れましょう。
足を開いて座る
全体的に影の量が少ない光源・アングルになります。股間下や接地面などにしっかりと濃い影を入れることで、メリハリを出しましょう。
ワンポイント
女性の太ももの筋肉表現は少なめですが、入れることによって印象が大きく変わることがあります。現実では見えないとしても、あえて入れることでメリハリをつけ、おしりなど女性特有の柔らかなパーツを強調することができます。目指す表現に合わせて筋肉の有無を選択するとよいでしょう。
年齢別 太ももの描き方
女性の腰回りのシルエットは骨盤の成熟度によって変化します。シルエットの変化を強調するように着色しましょう。
子ども
女性らしい特徴はまだ控えめで、全体的にほっそりとした直線的なラインです。筋肉も未発達なためあまり強調せず、子ども特有の柔らかさを意識しましょう。
影は全体的に軽めを心がけましょう。
中高生
女性らしいラインが徐々に形成され始め、太ももは丸みを帯び、ハリも出てくる頃です。筋肉の表現も描き込むようにしましょう。
各部の回り込みもグラデーションも子どもに比べて少し強調しましょう。
成人
女性としてのラインが完成します。おしりや太ももの重量感に注意して影を入れましょう。ハリとツヤを出したいときは、強めのハイライトと反射光を描き込むようにしましょう。
影を少し暗めにしたり、影の量を増やすことで、重量感を出すことができます。
太ももの塗り方
STEP1:おおまかな影とグラデーション
光源の向きに合わせておおまかな影とグラデーションを描き込んでいきます。慣れないうちは、この段階で筋肉表現は入れず、あとでレイヤーなどを追加していくと調整が楽になります。
ワンポイント
このときの影の色は下塗りの色よりも彩度が高めの色を選ぶようにすると失敗が少なくなります。
STEP2:暗い影を入れる
暗めの影を描き込んでいきます。立体感や重量感がぐっと増すため、しっかりと立体を意識して描き込んでいきましょう。肌同士の反射光も多少加えることでリアリティが出ます。
STEP3:肌の赤味・筋肉表現を加える
鼠蹊部や股間などの要所にほんのりと赤味を足すことでツヤやかさが増します。
STEP1で省いた筋肉表現を、内ももの内転筋群や腰から膝にかけての縫工筋などを意識して加えていきます。
STEP4:寒色表現を加える
新規レイヤーを作成し、股間下側やおしりなど最も暗い影を置いた箇所を中心に、青系の色をうっすらと乗せることでリアルさが増します。あまり強くし過ぎるとのっぺりとしてしまったり、違和感が生じてしまうので、レイヤーの不透明度を調節するなどしましょう。
STEP5:環境光を描き込む
影に環境光を描き込みます。今回は濃いめの水色をスクリーンで重ねています。やり過ぎると立体感がなくなってしまうので、明るくなり過ぎないように注意しましょう。
STEP6:立体感を強調する
立体感を強調するために光の当たる部分にグラデーションで薄くハイライトを描き込みます。次の手順で加えるハイライトがしっかりと見えるよう、明るくなり過ぎないように注意しましょう。
STEP7:ハイライトを加える
最も明るいハイライトを描き込んでいます。光源左側の太ももには、アウトラインに沿うようにハイライトを入れました。
右太ももにきっちりとしたハイライトを描き込むことで、ツヤのあるみずみずしい肌を演出しています。
STEP8:線画をなじませる
主線が黒のままではかなり目立ってしまうため、線画に色を乗せ、なじませて完成です。
影になる部分は線画の色も暗くします。