「甲冑に身を包んだ騎士」は、西洋ベースのファンタジー世界を題材とした小説やコミック、映画やゲームなどの作品で幅広く用いられるキャラクターです。
ファンタジーイラストにおいて登場人物が身につける装備に武具としての説得力を持たせることを考えるなら、モチーフとする装備について理解を深めておくことは、作品づくりの大きな一助になることでしょう。
「西洋甲冑&武具 作画資料」(渡辺信吾・著)では、中近世から近代の戦争に用いられた甲冑をはじめ、武器や馬具の構造や名称、装備が用いられた時代背景や、それに伴う装備の変遷までを詳しく解説。ファンタジーイラストレーションに落とし込む際のコツも紹介しています。
本記事では同書より、14世紀に用いられた甲冑の一例と、同時代の甲冑をモチーフにしたファンタジーイラストの描き方のコツをご紹介します。
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プレートアーマー(板金鎧)一歩手前
14世紀も終りにさしかかった頃の甲冑の一例。バシネット(鉢型兜)に先の尖ったハウンスカル(犬の顔)という面ぽおが付いているのが大きな特徴だ。コート・オブ・プレートの胸部は大きく膨らんだ一枚板となる。
バイザー付きバシネット
14世紀後半、ヘルメット(兜)にはバイク用ヘルメットのバイザーのような面ぽおが付いた。これは広い視界が欲しいときは押し上げておくこともできる。当初は平たい形状だったが、時代が進むにつれて先端が先細りとなった。このバシネット(鉢型兜)の出現以降、グレートヘルム(大兜)は儀礼的な防具となる。
この単純な五角形型の面ぽおが最も初期の形式と思われる。
開いた状態。
正面が円すい形に尖った形。下側には足元を見るための監視孔がある。
取り付け金具。面側の穴を兜鉢の突起に差し込んで固定する。
ヒンジが兜鉢の両側に移された形。円すい形の突起はより大きくなる。
開いた状態。
固定用ピンを抜けば、面ぽおは取り外せる。
面ぽおの通気孔は攻撃の集中する左側には開けない場合が多い。
胴鎧
胴鎧はコート・オブ・プレートからさらに発展して、胸部の鉄板は一枚板になった。胴の形状が現在の剣道の胴のように丸みを帯びたとものとなっている。
ブレストプレート
胸部の鉄板は独立してブレストプレート(胸当)へと発展した。
一枚板のもの。
分割式のもの。
腕当
上腕と前腕を守る筒状の部分が、ひじのクーター(ひじ当)によって連結されている。
クーターはヒンジになっており、関節の部分で折り曲げることができる。ハート型の張り出しはひじの裏側を守るもので正面側にしかない。
脚当
太ももを守るクウィス(もも当)とポレイン(ひざ当)が連結されている。ポレインの構造は基本的にクーターと同じで、この様式はその後も長く継承されていった。
ファンタジーイラスト・描き方のコツ
視線を意識する
「目は口ほどにものを言う」と言いますが、“視線” も絵を構成する要素の一つです。人間は他の動物よりも視覚にたよって生活しているので、視線と動作を連動させると自然なポーズになります。
コート・オブ・プレートは複数の鉄板を布や革で覆っています。内部の鉄板を意識して動きをつけてあげましょう。また、ガントレット(籠手)を装備することで手が大きく見えています。
甲冑の立体感を捉える上で、体と甲冑のスキマを意識することが大切です。例えばヘルメット(兜)は頭を覆っている物なので大きいです。また、ブレストプレート(胸当)のカーブの頂点は年代ごとで違います。注目してみましょう。
ポーズによる感情表現
フルフェイスのヘルメットをかぶっていると、顔の表情で感情を表現するのが難しくなります。腕や脚、頭や肩の角度など全身を使ってキャラクターの感情を表現してみましょう。
本書のこのチャプターではこのほか、より詳細な描き方のコツや、甲冑の着用方法も紹介しています。
<玄光社の本>