行って眺めて撮る! 巨大工場探訪ガイド
第1回

撮り方は?持って行く機材は??〜工場夜景撮影の基本

夜の闇に浮かびあがる、異世界感がSNS映えする巨大工場写真。今また人気が高まっています。工場写真の魅力は、圧倒的なスケール感、そして一般の建築物にはない複雑な造りが生み出す構造美。特にさまざまな光で明るく照らし出された夜景は、昼とはまた別の美しさがあります。書籍「行って眺めて撮る! 巨大工場探訪ガイド」では、日本各地の工場を取材している写真家・小林哲朗氏がフォトジェニックな工場スポットをピックアップ、それぞれの見どころや、そこでどんな写真が撮れるかを詳しく紹介します。また工場撮影の準備や心得、撮影のコツ、さらには撮った写真を美しく仕上げるための画像編集術も解説した一冊となっています。

第1回の本記事では「行って眺めて撮る! 巨大工場探訪ガイド」から、まず工場夜景を撮る基本についてご紹介していきます

>この連載の他の記事はこちら

行って眺めて撮る! 巨大工場探訪ガイド

【安全のために注意したいこと】
立ち入り禁止区域にはぜったいに入らない!


工場撮影をするために

巨大工場の魅力を少しでも感じて、写真を撮ってみたい!と思った方に、ここからは工場を撮影するための基本的なことを解説していきます。昨今とても大切となっている撮影のマナー、撮り方はもちろん、必要なカメラやレンズ、道具など、シンプルですが、基礎知識として知っておくべきことがあります。じっくり読んでいただき、撮影に出かける心構えも併せて整えていきましょう。

注意したいこと

・トイレは街中で済ませる! (工場地帯はそもそもトイレが少なく、あっても怖い!)

・立ち入り禁止区域にはぜったいに入らない!

安全のために

・リフレクターやランタンなどで自分の存在をアピールし、路上での身の安全を確保!

・交通量の多い時間帯の撮影は避ける!

自身の身を守るお役立ちアイテム

左から懐中電灯、ネックライト、ランタン

工場地帯は生活する区画と違う部分が多いため注意が必要な面もあります。まず撮影が許されるのは、公道や公園、展望台など公に開放されている場所のみで、工場の敷地内には絶対に立ち入ってはいけません。広大な工場地帯だと、知らないうちに敷地内に入っていたなんていうこともあり得るので、行きたいスポットは事前に地図で確認しましょう。

また、交通量の多い時間は撮影を避けます。夜間は交通量が少なくなりますが、大型のトラックの通行などもあるため、発光するものやリフレクターなどを身につけたり、身近に置いたりして、安全のためにもしっかり自分の存在をアピールします。また夜の工場地帯は人の往来自体が少ないので、何かあったときのため、携帯電話は肌身離さず持つようにしましょう。


工場撮影の基本

基本的な設定を知っておけば、より満足のいく写真が撮りやすくなります。特に夜の撮影の場合、現場が暗くて焦ったりするので、家でしっかり設定を確認しておくと安心です。

①RAWでも記録する

カメラの設定画面で記録形式を選択することができる。

特に夜の工場の場合、さまざまな光源があるので後で自由にWBが調整できるRAWファイルでの撮影が有利。RAW現像なんて出来ないと思っていても今後に向けて、RAW+JPEGで撮影をしておいてください。

②夜はISO感度を手動で

ISO感度オートの設定をオフにして手動で設定する。

夜景写真は特にノイズが目立ちやすいので、カメラのベース感度に近い数値で撮影するのが理想。感度オートになっているとかなり高感度まで上がってしまう事もあるので、手動で合わせます。

③絞り優先かマニュアルで撮る

A(Av): 絞り優先モード、またはM:マニュアルに設定。

工場の緻密さを表現するため基本的に絞りはF8前後が理想。F値を設定できる絞り優先オートかマニュアルで撮影します。RAW現像を前提とする場合-0.3〜-1EVくらいで撮影し、大きな白飛びを防ぐようにします。

④絞り込みすぎに注意

絞り込みすぎるとシャッタースピードも遅くなりブレやすい。

風景撮影では絞りをF16〜F22くらいに絞り込むことがありますが、シャッタースピードが遅くなりブレるリスクが増え、回折現象で解像度低下の恐れがあるので、絞ってもF11くらいまでにしましょう。

⑤三脚使用時は手ブレ補正OFF

ボディ内手ブレ補正、レンズ内手ブレ補正ともにOFFにする。

ほとんどのカメラやレンズは誤作動の恐れがあるので、三脚使用時の手ブレ補正はOFFにすることを推奨しています。三脚を使用するときは忘れないようにしましょう。レンズ、ボディ側の両方ともOFFにします。

⑥長秒時ノイズ低減はOFF

設定にノイズ低減に関する項目があればOFFにする。

長時間露光をすると熱が発生しノイズがのることがありますが、それを低減する機能です。ONにするとシャッターが開いていたのと同じ時間処理するので、一枚撮るのにかなり時間がかかります。


工場写真、どんなカメラで撮る?

まずは手持ちのカメラでチャレンジ

工場の撮影を始める際、まずは気軽に手元にあるカメラを使っていきましょう。特に夜間撮影に慣れないうちは暗い中で新しいカメラの操作に戸惑う事もあります。まずは慣れたカメラで撮ってみることをお勧めします。焦って新しいものを揃えなくても大丈夫です。まずはじっくり自分の撮影スタイルを知り、必要性を感じたら新しいカメラの購入を検討してください。

Nikon Z 9/ニコンのミラーレス機Zシリーズのフラッグシップモデル。

これから買うならミラーレス機

工場や工場夜景を撮るカメラが新たに欲しくなったらミラーレス一眼がおすすめです。驚くほど高解像度のレンズが多くあります。三脚に据えた際、光学ファインダーよりも、背面モニターできっちり構図を確認できるのも良いところです。どのカメラも画質は高いレベルにあるので、カメラのデザインや使用用途などで選んでも良いでしょう。

Nikon Z 8/Canon EOS R5
ニコン、キヤノンのフルサイズセンサーを搭載したミラーレス機。いずれもフラッグシップ機に劣らぬ性能を持ち、人気が高い。
FUJIFILM X-T5
富士フイルムのX-T5 はAPS-Cセンサーを搭載した一眼レフスタイルのミラーレス機。

レンズは300mmくらいまで必要

工場撮影ポイントは限られており、焦点距離は長い方がさまざまな切り取り方ができます。400mm以上では夜間はブレが目立ちやすく、扱いが難しいので、まずは300mmくらいまでが最もバランスが良いです。

NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S
焦点距離域100-400mmの超望遠ズームレンズ。望遠レンズにも、もちろん単焦点レンズがあるがズームより高価だ。

レンズ保護フィルターはなるべく外す!

高性能ガラスが使われているものも多く、本来のレンズ性能を損なわない工夫がなされてはいるが……。

夜景撮影の場合、強力な照明がレンズ内に入り込むとフレア、ゴーストが発生しやすい。その際はレンズ保護フィルターを外すことに解消することもあるので、夜景撮影を始める前には外しておきたい。外したとき用にフィルターケースを用意しておくと安心です。

フィルター類を使ってみる

光の入る量を減らすND フィルターや反射を抑えるPL フィルター、その他光条を出すクロスフィルターなどたくさんの種類がある。

工場地帯は熱の発生が多く空気中にチリが舞っている事も多く、日中はPLフィルターを使用するとコントラストを上げられ、夜には光害カットフィルターを使うと赤色が強調されてサイバーな感じの工場夜景を撮影できます。表現の幅も広がるので、あると便利です。

シャッターには手を触れない

長時間露光をする際、シャッターボタンに触れずに撮影ができるリモコンやケーブルレリーズが各社から発売されている。

夜景撮影で長時間露光をする際、三脚にカメラを設置しますが、直接指でシャッターボタンを押すとその振動でカメラブレが発生します。ケーブルレリーズやアプリのリモート機能、セルフタイマー(できれば5秒)などを利用しましょう。

テレコンバーターは昼のみ使用

倍率にもよるが、開放絞り値が1-2 段落ちるため、夜間に使用するとシャッタースピードを稼げなくなる。

レンズの焦点距離を伸ばせるので切り取れるパターンが増え有効なアイテムですが、絞り値が落ちるためシャッタースピードが長くなったり、長焦点距離によるブレが大きくなるなど撮影の難易度も上がります。超望遠レンズではできれば昼のみの使用が良いでしょう。

ブレ軽減に三脚を使う

高い三脚があれば脚立との組み合わせでフェンスを超えて撮影することもでき、夜間撮影時もカメラを固定できる。

高画質な工場夜景を撮影するにはブレを防ぐ三脚の使用が必須。自分の目線の高さまで伸びるものが理想的です。さらに高い三脚だと脚立や踏み台と組み合わせてフェンスを超えての撮影もできます。その際、工場敷地内にカメラを入れないように注意。

便利ズームは使える?

ズームのワイド端からテレ端までが10倍以上の倍率のズームレンズを「高倍率ズーム」と呼ぶ。

広角から望遠まで1本でカバーできる便利ズームは、利便性と引き換えに画質が良くないことが多くありました。しかしレンズテクノロジーの進化で、ここ数年の便利ズーム(特にミラーレス用)は画質が非常に向上していて、等倍まで拡大しないとそれとわからないことも。積極的に使用して良いでしょう。


行って眺めて撮る! 巨大工場探訪ガイド

著者プロフィール

小林哲朗

1978 年兵庫県生まれ。尼崎市在住。主な被写体は工場、路地、地下空間、廃墟などで身近に潜む異世界をテーマに撮影。各種撮影業務の他、カメラ誌への寄稿、写真教室の講師、フォトコンの審査員、トークイベントなども積極的に行う。「夜の絶景写真工場夜景編」(インプレス)「夜の工場百景ドローン空撮写真集」(一迅社)など著作物多数。

関連記事