写真の撮り方ガイドブック
第9回

「構図」で「テーマ」を伝える技術

スマートフォンやタブレット、あるいはフィーチャーフォンの普及によって、私たちは「一人一台カメラを持っている」といってさしつかえのない時代に生きています。人々は端末からWebサイトやSNSを利用し、その中で写真を見る、あるいは自ら撮影することも、今や日常の一部といえるでしょう。

いわゆるミラーレスや一眼レフといったレンズ交換式カメラを使った撮影は、スマートフォンでの撮影と比べて難しそうなイメージがあります。しかし実際のところ、両者ともカメラとしての構造は原理的にほぼ同じであり、写真を撮影するうえで留意するポイントに違いはほとんどありません。

写真の撮り方ガイドブック」では、カメラの構造や設定項目の意味、光の捉え方、構図の作り方からレンズによる効果の違い、デジタルデータとしての写真の扱い方まで、写真の基礎と機材の使い方を一通りカバーしており、写真を本格的に学ぶ始めの一歩として使える一冊に仕上がっています。

本書はミラーレスや一眼レフカメラユーザー向けに作られた書籍ですが、スマートフォンでの撮影に応用できる部分も多いので、本連載では両者で共通して使える概念やテクニックを中心に紹介します。

本記事ではPart2「写真で表現するために」より、「逆光」をはじめとした自然光の使い方についての記述を抜粋して紹介します。

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写真の撮り方ガイドブック

構図にとらわれず、構図を考える

写真は目の前の情景を切りとる作業です。そのすべてを写しとることが目的ではなく、自分の意思に従い、情景を限定して切りとることにこそ、写真撮影の醍醐味があります。この作業で重要な役割を果たすものが構図です。構図の果たす役割とは何なのか、具体的に掘り下げます。

構図を考えることで伝えたいことを明確にする

端的に構図とは撮影者が写真で伝えたいことを、より明確にわかりやすく表現していくことを目的としたテクニックです。構図を考える際、主に写真を撮る動機はふたつに分けられます。ひとつは目の前の「何か」に魅了され、それを撮りたいと思う場合。もうひとつは、具体的な何かではないものの、目の前の情景そのものに惹かれて撮りたいと思う場合です。

前者のケースは花やポートレート、テーブルフォトなどで多いです。後者のケースは自然風景や街中のスナップなどで多いです。もちろん、それに収まらないシチュエーションもありますが、構図的な視点に立った場合、大抵がこのふたつのいずれかに該当します。

前者の場合、撮りたい「何か」は明確です。ですから、撮影ではその「何か」をきちんと自分なりの視点で魅力的に撮る方法を模索します。後者の場合は、まず「感動しているおおよその部分」を探す作業からスタートします。感動している源泉(主題)を探し、それを明確にしてからどう切りとるかを考えます。これをシャッターチャンスを逃さぬように、ごく限られた時間の中でスピーディーに行うのです。

主題と副題の関係

主題、またはおおよその主題が認識できたら、「主題以外の被写体」、つまり副題をどうとらえるかを考えます。もっともわかりやすい例が、奥行きのある場面での背景の扱いです。背景が煩雑だと、それだけで主題の存在感が薄まります。背景がうるさければ、これをぼかしてみましょう。ごちゃつきを軽減できます。

主題がはっきりしているときほど、副題に意識が向きにくくなりますが、副題がしっかり把握できなければ、主題へのアプローチは成功しません。なぜならば、全体が見通せていないからです。まずは全体を感じとり、主題はその中の一部であることに気づくことも、写真撮影では大事な作業になります。

主題を目立たせるポイントのいろいろ

  • 画面内はシンプルなほうが、主題は目立つ。
  • 余計なものは周囲に写り込みやすいので注意。
  • 主題は画面の中で大きいほど、そして色鮮やかなほど存在感が増す。
  • 人物が主題の場合、顔回りをシンプルにしたほうが、表情が強調できる。
  • 背景や手前はぼかすことで、存在感をコントロールできる。
  • 色みのある副題は、ぼかして入れ込むとアクセントになる。

主題を目立たせ魅力的に見せるには、画面内の要素を可能な限りシンプルにする意識も大事です。背景をぼかす行為は、まさしく要素をシンプルにしていく典型的な構図技法のひとつです。

被写界深度で主題を浮き上がらせる
主題は中央の赤いワゴン車です。絞りを開き、背景と手前を大きくぼかすことで煩雑さを緩和。主題としての存在感を強調しています。主題にふさわしい被写体とは、画面の中で真っ先に視線が向かうインパクトを持ち合わせているものです。

絞り優先オート/ F2.8/1/500秒/ISO160/50mm相当/+1補正

全体の要素をシンプルに限定し小さな主題をきちんと見せる
主題はアルパカの剥製ですが、この場の空気感も伝えたくて、ある程度の距離感を保ちながら撮影。壁の色や質感が副題になっています。この写真のポイントは、主題が小さいにも関わらず、画面全体の要素が絞られたことで、その存在感が損なわれずにきちんと残されていることです。

絞り優先オート/ F5.6/1/320秒/ISO160/50mm相当/+1補正

ラインへの意識

構図を考える際、画面内の安定感が写真の中の「ライン」に大きく左右されることも覚えておきたい要素です。ここで言うラインとは地平線や被写体の形などから生じるラインです。このラインの垂直水平具合や、配置される位置によって、仮に画面内の被写体の要素は同じでも、その写真から受けとる印象は大きく変化するのです。とくに垂直水平の傾きは、それが安定感を損なう働きをする場合もあれば、動きを演出する効果をもたらす場合もあり、状況によって違います。例えば、自然風景や建築物などは垂直水平をきちんと出したほうが、安定感が増し、情景全体で存在感のある描写になることが多いです。

また、ラインは構図に迷う場合の打開策を導き出してくれる役割も。構図に悩んだら重要なラインを画面内から探してみましょう。そのラインを意識し構図を組み立てるのです。新たな視点が発見できるかもしれません。

ラインを傾け、動きをつける
画面を傾け、動きを演出しています。こうした描写は、画面の傾きがわかるように、きちんとラインを入れ込むことが大事です。ここでは道路や柱などのラインが、斜めの効果を強調しています。

絞り優先オート/F4/1/125秒/ISO160/50mm相当/+0.3補正

空間を被写体としてとらえる

空間はそれ自体が重要な被写体です。とくに主題のはっきりした場面では、空間の広げ方やつくり方が大きな影響力を持ちます。総じて、効果的な空間演出は、画面内で主題を引き立たせる格好のアクセントになります。その先の広がりを想像させるような、ゆったりとした印象も見る側に与えます。これは、つまり「間」の演出です。

空間は目に見えないため、配慮せず撮影してしまう傾向があります。しかし、写真撮影では意識的であるにせよ、そうでないにせよ、大なり小なりひとつの存在として、空間は必ずついて回ります。目には見えないこの部分にも意識を向けることで、構図的な視点はより一層の広がりを見せます。

ポートレートもラインが大事
垂直水平のラインはポートレートを撮る際にも影響します。この写真は美しい背景ボケで主題を目立たせていることもポイントですが、地平線のラインが水平であることで、画面全体の安定感が保たれています。

絞り優先オート/ F2.8/1/250秒/ISO400/50mm相当/+1補正

空間には意味がある
食べ物に代表されるテーブルフォトでは、空間の演出が大きな役割を果たします。手前のトーストに対し、ぼけた食べ物を含む背景全体が「間」になっています。

絞り優先オート/ F2.8/1/250秒/ISO160/50mm相当/+1補正

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