被写体としての「空」は、誰もが見上げればいつでも目にすることができ、その時々で様々な表情を見せてくれる、身近で手軽な存在です。しかし誰が撮っても「それなり」の絵になる一方で、写真映像作品として「それなり以上」を目指すのであれば、技術を磨き、機材を整えるだけでは足りず、さらにひと工夫もふた工夫も必要になる奥深さがあるジャンルでもあります。
「四季の空 撮り方レシピブック」では、日本の四季に見られる気象現象を中心として、「空」にまつわる様々な作例と、撮り方のコツを解説しています。また、機材選びやカメラ設定についても言及しており、様々な条件がありうる気象撮影における勘所を掴むのにも役立つ一冊となっています。
本記事では「四季の空を撮る・秋の空」の章より、「雄大積雲と水上竜巻」の作例を抜粋して紹介します。
雄大積雲と水上竜巻
秋の日本海の水はまだ温かいため、大陸から冷たい空気が入り込むと雄大積雲などが発生しやすい。場合によっては水上竜巻が現れることも。
雲から垂れ下がる水上竜巻
雄大積雲から漏斗雲が垂れ下がり、海面に接すると水上竜巻になる。雲の移動に取り残されて、伸びた形になった。
秋の日本海に大陸から冷たい空気がやってくると、海の水はまだ温かいため、その温度差で大きな積雲(雄大積雲)などが発生する。雲の成長はとても早く、強い上昇気流を伴うので、風の渦が発生して海面に向かって漏斗雲が現れることがある。その雲が海面に接すると水上竜巻が発生する。北西の季節風に雲が流されるため、竜巻の形は曲がり短時間で消滅する。台風接近時などの巨大積乱雲による内陸の竜巻よりも勢力は弱いので、被害が発生することはあまりない。
雄大積雲の夕焼け
雄大積雲が発達して夕日に染まった。その成長は早く、上昇気流も激しかったため雲の底から漏斗雲が下りてきた。雲の背は高く日没後も赤く輝いた。
秋の日本海で、急に大きく発達する雲があったら要注意だ。雲に近づくのは危険で、突風や急な雨、そして雷にも注意しよう。水上竜巻は遠方にあって、かつこちらに向かっていないことがわかった場合のみ、撮影することができる。最初の作例では水上竜巻は遠方にあり、かつ右側に動いていることを確認した上で撮影した。大きな雲が存在しないと竜巻は発生しない。夕方には雄大積雲が夕焼けで赤く染まる光景も見られるが、その時間は限られている。
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