ふだん写真は撮っているけれども、どうも納得できる写真が撮れない。そういう思いを抱く人は多いのではないでしょうか?写真家の大村祐里子さんは、フォトテクニックデジタルの連載「大村祐里子の身近なものの撮り方辞典」の中で、日常的な風景を独自の視点で見つめて写真作品をつくる方法を教えています。
第25回のテーマは「夕暮れ」です。
「大村祐里子の身近なものの撮り方辞典」が書籍にまとまりました。本連載で取り扱ったテーマに加えて、新たに「クレーン」「炭酸」「排水溝」など合計100テーマを収録。日常の中で目にする、しかし被写体としてはあまり気に留めない様々なモノたちを記録する一つの視点を提案します。
撮影のポイント
1. ステレオタイプの夕暮れ写真ではなく、夕暮れの色を活かしたアイデアに富む写真を考えよう。
2. 夕暮れに感じた色と、実際に写った色の違いを埋めるため、すぐに色合いを調整できるカメラを使おう。
木々の向こう側へ夕日が沈んでいくシーンに出くわしました。手前の草にピントを合わせて背景をぼかすと、木漏れ日となった夕日がオレンジ色にキラキラと光り、まるで草が燃えているように見えました。その光景がなんとも美しかったのでシャッターを切りました。色はPEN-Fで調整し、燃えているように見えるよう、オレンジ色を鮮やかめに出しています。
夕暮れの色をどう活かすか?
私はあまのじゃくなので、夕暮れの時間帯に撮影をする時は、できるだけ「オレンジ色に染まる壮大な空!」…以外の絵を撮ろうとしています。夕暮れ時の撮影の楽しさは、太陽の光が温みのある色に変化するところにあると思っています。その「色」を写真の中でどのように活かしたら面白い作品になるか考えてみると、夕暮れ時の撮影が一味違ったものになるはずです。オレンジ色の木漏れ日や、水たまりに反射した夕焼けも、とってもきれいです。
自分の感じた色に調整できるカメラを
このように夕暮れ時は太陽の光の「色み」が命なのですが、実際に夕暮れ時に撮影してみると、太陽の光が、自分の感じたような鮮やかな色に写らなかったりします。実際の色と、人間がイメージとして抱く色は異なるので、当然の結果です。そういう時は、色みを簡単に調整できるカメラを使うと、現場での感動をそのまま持ち帰れます。私は、夕暮れの撮影をする時には、手元で色みや彩度などを細かく調整できるオリンパスのPEN-Fというカメラをよく使います。
天気が悪い日の夕暮れ時、高層ビルの最上階から景色を眺めていると、厚い雲の切れ間から一瞬だけ太陽の光がのぞきました。それだけでもきれいだったのですが、普通の夕焼け写真になってしまうのが嫌でした。そこで、PEN-Fで色を調整し、全体的な色調を紫に変えました。そうすると、なんだか世紀末のような雰囲気になり、これはこれでいいと思ったのでそのまま採用しました。
実はこの連載が始まる前、編集長に「大村さんはアスファルトも撮れるでしょ」と言われました。アスファルトくらい身近なものも撮れるでしょ、という期待を込めた意味だったのだと思うのですが、実はそこまでアスファルトを撮ったことがなく、それ以来、なんとなく地面を見ながら歩くようになりました。これは北海道の駐車場で、氷の張ったアスファルトに夕日が当たった瞬間を撮影したものです。黒々とした地面に反射したオレンジ色の光がきれいだなと思いました。新しい視点を授けてくださった編集長、ありがとうございます(笑)。
日が沈むと、空がオレンジから紫色に変化します。その空のグラデーションが優しくていいなと思ったのですが、空だけ撮るのは癪だったので、目の前にあった草木を入れてみました。ちょうどオレンジと紫がきれいに分かれているところに草木を配置したので、デザイン的な視点の写真になりました。夕暮れを、こうやって背景のテクスチャとして使うのもアリですね。