「身近なものを作品にする」大村祐里子さんの撮り方辞典、第13回のテーマは「木」。日常的な被写体を作品として成立させるためには、非日常的な特別感を演出する必要があります。
「大村祐里子の身近なものの撮り方辞典」が書籍にまとまりました。本連載で取り扱ったテーマに加えて、新たに「クレーン」「炭酸」「排水溝」など合計100テーマを収録。日常の中で目にする、しかし被写体としてはあまり気に留めない様々なモノたちを記録する一つの視点を提案します。
撮影のポイント
1. 普段何気なく目にするものだけに、あまり見ないシチュエーション下での撮影を意識する。
2. 一本の木を撮るなら日の丸構図が向いている。
渡良瀬遊水地にて、道を歩いていた時に突如目の前に現れた一本の木の存在感に心を奪われ、シャッターを切りました。木の存在感をより強めるため、道も視線も、中心にある木へ向かうような構図にしました。
意識的に観察する眼を持とう
木はどこでも目にすることができますし、撮影することができます。ただ、こういった“木”のように日常生活でよく見かけるものを絵として成立させるためには、「見たことのないようなシチュエーション」下で撮影をすることが大切だと考えています。個人的に、木が“一本ぽつんと存在している”ような状況は、いわゆる「見たことのないようなシチュエーション」だと思っているので、そういった情景に出くわしたらすかさず写真を撮ることにしています。
日の丸構図に向いた被写体
木こそ「日の丸構図どんとこい!」だと思っています。わたしは、被写体である木を清々しいくらいにセンターに入れて撮ります。普段さりげなく日常に紛れている木が、一本ぽつんと存在していて、さらに写真のど真ん中に配置されていると、見たことのない雰囲気に仕上がってインパクト大じゃありませんか?さらに、上下左右が同じ比率である正方形のフォーマットで撮影すると、日の丸構図がよりカッコよく決まります。日の丸構図が悪だなんて絶対嘘です。
北海道の美瑛町にて、シアン寄りの青色をした爽やかな空と、繊細な白樺の木の対比が美しかったので撮影をしました。空に浮かぶ雲と、白樺の並木が右上に向かっていくような構図にすることで、「安定しているけれども少しだけ動きのある絵」に仕上げました。
こちらは春先の北海道の美瑛町にて。溶け始めた雪の中に佇む一本の木が神々しくて美しかったのでシャッターを切りました。この時は、太陽の光が向かって右上から左下へ注いでいるような雰囲気だったので、木をセンターに配置するよりも、向かってやや左に配置する方が光とのバランスが良かったのでそうしました。
北海道のニセコにて。雨が降っていたので車の中から外を眺めていたら、二本の木がぽつんと立っている場所を見つけました。雨のしっとりした雰囲気と木を組み合わせて撮りたいと思いましたが、一発撮りでは難しいので、木を先に撮り、そのあと窓についた雨粒を撮影して、多重露光で一枚の写真に仕上げました。