アニメーション制作においては、映像背景の元絵となる「背景原図」と呼ばれる作業があります。背景は、作品内で起こるあらゆる事象や世界観をビジュアルとして表現し、作品そのものの雰囲気を決定づける重要な要素です。
TVアニメシリーズやアニメ映画の美術原図や美術設定、CGストラクチャーデザインで知られる高畠聡さんの原図集「高畠聡アニメーション精密背景原図集」では、高畠さんが過去に手がけた映像作品の背景原図と、本人による解説に加え、制作当時のエピソードやインタビューなども併せて収録。緻密で正確な仕事の一端を垣間見ることができます。
本記事では、同氏がCGストラクチャーデザインを担当した映画「メトロポリス」(2001)の背景原画と解説を抜粋して掲載します。
©手塚プロダクション/METROPOLIS製作委員会
さまざまな質感の背景が混在する世界
このビルはポリゴンで作った物をベースに手描きで描いたテクスチャーを張ってディテールを追加しています。絵の質感が色々混在している不思議な世界観になっています。美術監督の平田秀一さんも許可してくれていたので、さまざまな質感を混在させています。
平田さんが担当された地下都市部分は手描きメインになっていますが、私達が担当した地上世界は対照的にCGがメインになっていて、そういう差が面白いなと思います。
ジグラットの制作の変遷とレイヤー構成
物語のメインとなるジグラットという建物を中心とした地上世界のレイヤー構成です。奥や左右のビルをそれぞれ分けてあり、影の素材やモノレール、エアカーなども走っていて、エレベーター部分にはキャラが行ったり来たりしています。レイヤーは全部で36枚もあります。3DCGなど、デジタルでの作業が過渡期の作品で、当時この様な仕事をさせて頂いた、マッドハウスには大変感謝しています。色々問題も山積し、とても大変な仕事でしたが、りんたろう監督と丸山正雄プロデューサーには感謝しかありません。
背景美術から色指定
ここで紹介するのは美術スタッフから上がってきた色指定。このサンプル画像を元に「Soft image3D」内のパレットを作ってスポイトで抽出した色をビルの一面一面に移植するという気の遠くなる作業をしていました。 このビルの固有色に影のレンダリング素材を重ねて完成画面が仕上がっていきます。3か月間程度この作業を繰り返して、地上世界のカットは出来ています。
PANダウン
ジグラットからPANダウンしていって、地上世界が見えてくるというシーンです。最初に末武康光さんが描いた美術設定を元に手描きとCGを組み合わせた特報映像を作ったのですが、それはあまり見栄えが良くありませんでした。CG部分が劇場のスクリーンで観た時に手描きに比べて情報量が少なかったようです。そのため、私の方でさらにCG上のディテールを足していきました。記事最下段にあるセピア色のものが特報の時のバージョンになります。
実際の映像
完成した実際の映像ではジグラットからPANダウンして、街並みを写しています。
特報バージョン
黄色味がかったセピア色した画像が特報バ−ジョン。
©手塚プロダクション/METROPOLIS製作委員会