SDキャラシリーズ生みの親、画業30余年で初めての画集。「夢を見ているような気分」横井孝二さん&栗原昌宏さんインタビュー

著者の横井孝二さん(左)と編集を担当した栗原昌宏さん(右)

リアルなキャラクターを二頭身にディフォルメした「SD」(スーパーディフォルメ)は、1980年代にバンダイが展開した「元祖! SDガンダム」などで広く知られるようになったイラストレーション手法です。この手法は現在でも様々な作品で登場人物の心情などを表現する手段のひとつ「ちびキャラ」として使われています。

10代からイラストレーションや漫画の分野で30年以上にわたって活躍し、「SDガンダム」の生みの親である横井孝二さんの初画集「横井孝二SD画集 画伯が描くスーパーディフォルメワールド」は、デビュー直後から現在までに描いた「機動戦士ガンダム」「仮面ライダー」「ウルトラマン」「ゴジラ」のSDイラスト作品を収録しています。

本記事では、著者の横井孝二さんと、編集を担当した栗原昌宏さんに、画集を出版した経緯やイラストレーターとしての横井さんのルーツ、SDキャラクターの作画技術についてお聞きしました。

横井孝二SD画集 画伯が描くスーパーディフォルメワールド

幼少期、ディフォルメされたものは身の回りにたくさんあった

横井孝二さんは、1968年生まれ。幼少の頃にはウルトラマンやゴジラ、仮面ライダーに親しみ、絵を描き始めたのは小学生の頃。母親の勧める習い事が続かなかった中、唯一続けられたのが、絵の教室だったといいます。

横井「僕の母親はいわゆる『教育ママ』だったので、英語とか、バイオリンとかいろんな習い事をさせるんです。でも僕自身かなり飽き性でしたので、そういうのが何一つ身につかなかったのですが、家の近所に学校の先生が片手間にやっていた絵の教室があって、そこだけは続きました。なんでもいいから絵を描くと評価してくれて、ポイントがたまっていって、一定までポイントがたまると駄菓子とか、ちょっとしたおもちゃをくれました。そこに置いてあったのが『宇宙戦艦ヤマト』とか『ドカベン』の消しゴム。おもちゃ欲しさで熱心に通うようになって、上達していったのです」

絵を描くことに熱中し、授業中にも隠れて絵を描くようになると、先生にばれないよう、ノートの隅に「縮めた」絵を描くようになっていきます。

横井「授業と関係ない落書きが見つかると、そのたびに描いた絵を破かれたり、燃やされたりしましたよ。その時代の母親って、結構そういう激しいことをするんですよね。そのせいなんですかね? 縮まった絵を描くようになったのって(笑)。モチーフの持つ情報量を小さい絵に収めようとすると、自然とディフォルメされるんです。それまで見ていたものを見習いながら、自分流に縮めていったというか」

ディフォルメされたものは、当時の横井さんの周りにもたくさんあったといいます。例を挙げれば、ソフビ人形のヒーローや怪獣、安価な食玩や、航空祭のパンフレットなど。キャラクターもので強く記憶に残っているものでは、「のらくろ」を挙げています。

横井「父なのか兄なのか、誰の趣味なのかわからないのですが、家にのらくろの本があって、表紙を開くと『第何連隊進撃の図』みたいな戦場の図が載ってるんです。そこに丸っこい犬のキャラクターがひしめいて、敵役として出てくる豚の軍隊と戦ってたりして。それがすごくいい感じのディフォルメで、今でもよく憶えています」

「今思えば、当時のおもちゃって、多少なりともディフォルメがかかっているんですよね。怪獣のソフビ人形にしても、映像に出てくるのから少し等身が縮まってたり、200円くらいで売ってた前後合わせのプラモデルも、仮面ライダーとかキカイダーが、6等身くらいに縮まっていた」

栗原「全体的に今みたいにスタイリッシュなものではなくて、少し着ぶくれしているような体型でしたよね。これは当時の製造技術によるものだと思うんですけど、どこかしらディフォルメがかかっているのをよく見かけました」

中学生になって、絵を描くことからしばらく離れていたという横井さん。「『機動戦士ガンダム』が放映されていたことにも気付かなかった」といいますが、現在の作風に大きな影響を受けた漫画「Dr.スランプ」に出会ったのもこの頃でした。

横井「初めて『Dr.スランプ』に触れたのは、中学生の頃、喫茶店で時間つぶしにジャンプを読んでいたときでした。まず画面の描き込みがものすごくて、キャラクターがいい感じに詰まっている。可愛い女の子も出てくるし、『なんでもある絵』だなというのが最初の印象で、すごいものを見てしまったと思いました。その頃はあまり絵も描いていなかったし、ヒーローとかからはいったん卒業して、大人ぶってた時期だったのですが、それをきっかけに揺り戻されたようなところがありましたね」

高校に入り、『鳥山劣』のペンネームで雑誌投稿を始めると、しばらくして連載の声がかかりました。その電話は親が取ったんですが、『バンダイの人から電話が来たんだけど』って驚いてましたね。現金なもので、『漫画を描くな』と言っていた人が、そういう話になったとたんに『やっていい』と(笑)」

ヒーローのディフォルメは「決めポーズ」が命

SDキャラクターを描くにあたり、技術的に気をつけているポイントを聞いてみました。

横井「ガンダムについては、ザクの情報量に合わせようとしていて、どうしても特徴を残さないといけない部分を除いては、線を減らしています。それを鳥山明風にアレンジしている感じです」

栗原「よく見ると、パーツがごっそりなくなっている部分もありますよね」

横井ガンダムなら、脇腹の赤いパーツがほとんどない。お腹の部分は、胸のパーツで覆い隠すような描き方になっていることが多いです。お腹部分をちゃんと入れてしまうと、胴長になってしまうんですよね。だから胴体なら胸と腰だけ、腕は二の腕がないし、脚は太腿部分がない。特徴を残すディフォルメの仕方は、ガンダムで決まるまでは、ずいぶん悩みました」

「でも、これってガンダムのパーツ構成だからこういうディフォルメになっているだけで、他のキャラクターだと、こうはなっていません」

「例えば仮面ライダーやウルトラマンのようなヒーローものであれば、指の形まで含めたポーズが重要です。ガンダムと比べてディテールも少ないので、思い切って圧縮しても破綻しないし、むしろ下手に省略してしまうと、決めポーズが伝えられなくなってしまうのです。スーツアクターさんの癖とか、かっこいい場面写真をそのまま縮めて描くとなると、肘や膝も曲げないといけない。それでもモビルスーツよりは制約が少ないです」

「ただ、今はそれほど描いていないからいいですけど、いわゆる『平成ライダー』はディテールが多いので、どこか削らないといけないですよね。もしたくさん描くことになったら悩ましそうです」

ヒーローものはアクターが指のポーズまで気を遣っているので、そこも拾うようにしているという。「好きな人はそういうところも見ていますから」(横井さん)
左:(C)石森プロ・東映/右:(C)創通・サンライズ

「指のポージング」はモビルスーツにはない要素。モビルスーツの場合は大抵武器を持っているし、拳を握っている。「言ってしまえば、むしろそれは逃げどころ」と横井さん

時代劇は「ヒーローもの」。自然と時代劇好きになった

漫画「プラモ狂四郎」に登場した「武者ガンダム」が活躍する「SD戦国伝」においては、武者ガンダムのほかにも『機動戦士ガンダム』シリーズに登場するモビルスーツをモチーフとした様々なキャラクターが出ており、その原案を横井さんが担当しています。名古屋出身ということで、横井さん自身も時代劇好きだといいます。

横井「名古屋にはお城もありますし、風土的に織田信長、豊臣秀吉、徳川家康といった戦国武将を推してる地方なので、時代劇とか大河ドラマで舞台になると、途端に町をあげて盛り上げるんですよ。小さい頃からそういうものに触れる機会が多かったし、時代劇もある種の『ヒーローもの』ですよね。刀を持って、鎧を着て、派手な格好をしているのがかっこよかった」

「少年時代は、原作が池波正太郎系の難しいやつはわからなかったので、『水戸黄門』や『遠山の金さん』、『必殺シリーズ』が好きでしたね。時代劇は全般的に好きなので、今でも暇なときは、大抵何かしら流しています。時代劇の登場人物は結構ネタにもなっていますよ」

画集では、モビルスーツや変身ヒーローだけでなく、パイロットをはじめとした人間のSDキャラクターイラストも数多く掲載。横井さんによれば、人物のSDイラストは「似顔絵の延長」とのことで、キャラクターの性別によって描き方もだいぶ違うと話します。

横井「『ディフォルメスケバン刑事』で実感したことですが、女の子って、線が多いとかわいくなくなるんですよ。老けて見えてしまう。ディフォルメスケバン刑事は、キャラの特徴さえ似てれば、見た人がその人物だと思ってくれるところに期待したところはありましたね」

「逆に男性は似すぎてしまって、戦国武将ものでSDをやったときに、モデルにした俳優がわかってしまうということもありました(笑)。その時は特に怒られるということもなく、普通に売られていましたから、おおらかな時代でしたね」

アメコミキャラクターをSD化してみたい

横井画伯と「SD」は切っても切れないイメージがありますが、横井さん自身、SDとは異なる仕事に興味はあるのでしょうか。

横井「いままでにも多少、SDとは違う仕事や、オリジナルの企画をやったりはしましたが、どうしてもある種の不安がぬぐえないんですね。アレンジ作業というわけではないですが、これまでずっと『元ネタ』があって、それをSDとしてどう活かすかにばかり集中してきましたから『完全に横井オリジナルでやってほしい』と言われると、描いても自分の中で何かが足りない気がするんです。僕に求められてるのってそれじゃない気がするし」

「それを無理してやるというよりは、まだディフォルメを手掛けていないキャラクター達を描いてみたいという気持ちが強いです。それは平成ライダーもそうですし、マーベルやDCといったアメコミのキャラクターですね。2018年には映画『パシフィック・リム』とカードダス※のコラボでカードの絵を描いたりもしました。そういうのが全部まとまったらまた面白いんじゃないかなとは思います。なんでもSDにしたいですね」

※バンダイが発売しているトレーディングカードと、カード販売機を指す総称。

仕事以外でも絵を描きますか?

横井「もう長いこと趣味が仕事になってしまっているので、仕事と趣味の境界線がないです。でも仕事では描けないものは、そっとTwitterで流したりはしています」

栗原画集の表紙になっている『ULTRAMAN』も、元々はそっと流したものを原作者の方が見つけて喜んでくれたものでしたよね」

横井さんのセンスは文字化できない

栗原昌宏さんは、SDガンダム関連の企画や書籍の編集および執筆、ロボットアニメの設定協力などを行っており、本書でも編集を担当しています。学校を卒業後に就職した株式会社レイアップにて、武者ガンダムが活躍する「SD戦国伝」のチームに配属。横井さんとの最初の仕事はカードダスだったといいます。現在は「SDガンダムデザインワークス」など書籍の編集や、プラモデル「レジェンドBB」などのストーリー設定などを担当しており、横井さんが生み出したSDガンダムとは長い関わりを持っています。

玄光社ではすでに、SDガンダムをテーマにした「SDガンダム デザインワークス」「SDガンダム デザインワークス Mark-II」を出版していますが、今回「横井さんの画集を出そう」という話になった背景には、どういった経緯があったのでしょうか。

栗原「企画は僕の持ち込みですね。僕自身は昔から横井さんの画集が欲しかったのですが、誰も作ってくれないから自分で作ろうと思っていて。画集を出そうという企画が生まれた直接のきっかけは、『SDガンダムデザインワークス』です。これも2018年の12月時点で2冊出すことができて、『じゃあ次はどうしようか』と考えたときに、そろそろ画集を出せるかなと思いました。「SDガンダムを題材にして、ディフォルメ絵の描き方ハウツー本ができないか』という話もあったのですが、それが色々な事情で難しそうだということで、じゃあ画集にしましょう、という流れです」

「横井さんってセンスで描く方だから『ここをこうすればこうなります』という形では文字化が難しいんですよね。それなら、これまでの作品を集めて収録して、解説を入れていけば、SDを描きたい方に向けたハウツーっぽくなるかなということで、画集の形になりました」

栗原「『デザインワークス』を買ってくださったお客さんも熱い方が多かったので、これはいけるんじゃないかという手ごたえもありましたし、何よりタイミングが良かった。編集としては、『デザインワークス』でSDガンダムは2冊も出ているし、『武者』や『騎士』も一通りカバーしているので、画集ではノーマルのSDガンダムだけを集めることにしました。その分、仮面ライダーやウルトラマンをたくさん掲載できてよかったと思いますし、何より僕自身がそういう画集を見たかったのです」

横井「タイミングが良かったというのは、このところ『SD』に対する盛り上がりもあるところですね。これが例えば10年前だったら、こうはいかなかったはずです。当時はSNSで広めるとかもしていなかったし、SDに対する盛り上がりもなかった。くすぶっていたというか、そういう時期でした。『こういうものが欲しい』と声を上げていただいたのがここ数年のことですから、この10年、みんなで潜在的な需要を掘り起こせた結果の一つなのではないかと考えています」

はじめての画集。作業の途中まで「本当に出るのかな?」と思っていた

30年以上の画業の中で初めての画集ということで、掲載する作品の選定や、掲載順の決定についても初めての仕事で苦労したと話します。

横井「収録する作品の選定がまた遅々として進まなくて。どれをどうしたらいいのか、手探りでしたね。どれも気に入ってるから。まず『画集が出る』という事実自体が不思議で、途中まで『本当に出るのかな?』なんて思っていました。画集を出したいという気持ちはあったのですが、版権の問題でSDガンダムだけになるだろうな、とも思っていたので、東宝さんや円谷さんのキャラを選びながら、夢を見ているような、そんな気分でした」

「収録順の構成も、描いた時期の順番にするかどうかで悩んだのですが、最終的にはシリーズ別、年代順に並べる形で落ち着きました。だから見開きで見てみると、右のページと左のページで描いた時期に10年以上隔たりのある絵が載っていたりします」

原画のコピー、三面図
バイクやキャラクターの体つき、コスチュームの線やポーズには鳥山明さんの影響を受けているという。「バンダイさんは本当は鳥山さんに描いてほしいんだろうなと。色々な事情があって、似せて描けるやつに頼んでるんじゃないかなって思って描いてた時期はありました」(横井さん)

扉絵もじっくり見てほしい

最後に、画集の見どころと、次の画集についての構想をお聞きしました。

横井「実は各シリーズの扉ページには新しめのカットがあったりするので、何が描かれているのか見てほしいかな。こういう仕事があったのか、と思っていただければ」

栗原「カラーのイラストとして商品化されていなかったり、ゲーム用の下絵だったりしますね」

横井「SDガンダムの扉絵で言うと、左上がSDガンダムを始めた一番はじめの時期です。で、その隣が受験の時期に上京した時描いたやつ。1年浪人してから会社に入って描いたのが左下で、右下は比較的最近の絵ですね。画業30年の歴史が背景になっているというつくりです」

(C)創通・サンライズ
「SDガンダム」の章の扉絵

横井「次の画集について、進んでいる企画はありませんが、SDガンダムに限らなければ、2冊目をまとめられるくらいの作品ストックはまだまだあります。『スーパー戦隊』や『メタルヒーロー』シリーズに、サンライズのロボットヒーロー作品もいくつか、それに『パトレイバー』が結構ありますので、もし新たなオファーがあれば、それらに最新の作品も追加して2冊目が出せるので、それができたら一番良いですよね」

(C)創通・サンライズ

 


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横井孝二SD画集 画伯が描くスーパーディフォルメワールド

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