和の幻想世界の描き方
第8回

和傘の描き方 〜イラストレーター七原しえさんのテクニック〜

和風ファンタジーの世界観は、アニメやゲームなどで人気のある類型の一つです。わたしたちが歴史の中で垣間見る過去の日本とは似て非なる日常生活の様相には、その世界でこれから繰り広げられる物語への期待を掻き立てる魅力があります。

和の幻想世界の描き方」では、イラストレーター七原しえさんが、イラストの背景にある設定のほかアイデアを発想するコツ、イラストに仕上げるまでの制作手順を詳細に解説。世界観の設定からイラストレーションを起こす技術を身につけられる一冊となっています。

本記事では第1章「春霞」のイラスト制作工程に関して、具体的な手順を抜粋して紹介します。

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和の幻想世界の描き方

メイキング解説

4. 和傘の描き方について

①クリスタ『境界効果』の設定
新規ファイルを1つ作成し、ファイル名『和傘』等で保存します。まず傘の骨を作成します。レイヤープロパティ『境界効果』を設定します。『境界効果』はブラシの輪郭に自動的に境界線が設定される機能で、今回のようにペン先でしっかり線画を描いたような「フチ」、水彩画のように滲んだ輪郭が出る「水彩境界」などがあります。設定をオフにすると輪郭のないレイヤーに戻せます。今回は『境界効果』フチ機能、フチの太さ「2」、画像のような色に設定して使用します。

②クリスタ『対称定規』の設定
①で作成した『和傘』フォルダに直接対称定規を作ります。クリスタ『図形』ツールからサブツール『定規作成』→対称定規を選択します。ツールプロパティで対称線の本数や角度が設定できるので、ここでは対称線の本数14、角度刻みはデフォルトのまま45としておきます。

フォルダを選択した状態で傘の骨組み中心にペン先を置き、SHIFTキーを押しながら画面上に向かってまっすぐペンを動かすと、合計14本の定規線が放射状に出来上がりました。

③傘骨組みの作成
①で作成済みの『境界効果』設定済のレイヤーに傘の骨を描きます。定規の中心点から、定規『直線』で線を引きました。この大きさが傘の大きさとなるので、ここで自分が描きたい傘の大きさを決めることになります。次に同じレイヤーをコピペし、そのレイヤーを少し回転させて骨の本数を2倍に増やします。骨全てを1枚のレイヤーで描くと、骨と骨が重なる円の中心部分は塗りつぶされた状態になり、境界線がはっきりしなくなってしまうためです。

④傘生地輪郭の作成
骨組みレイヤーの一番下に新規レイヤーを1枚作成します。骨組み先端に折れ線ツールなどでぐるっと傘の生地部分、輪郭を取ります。この線を参照として色を塗るので線は途切れないように。また、実際の傘と同じように、傘の骨先端が生地から少しはみ出しているようにすると、実際の傘らしく見えます。出来上がった輪郭をコピペし縮小して小さいサイズの円レイヤーも作成しておきます。ここが骨組みと傘の柄をつなぐ内側の細かい骨組み、受骨部分の直径サイズとなります。

⑤傘の形に変形
編集→変形→拡大・縮小で、フォルダごと上下を縮小して平たい円状にします。

次に編集→変形→遠近ゆがみを選択。上部が狭く、下部が広くなるよう台形ゆがみを作ります。狭い上部が傘手前、長い方が奥です。

もう一度上下の幅を拡大・縮小で調整しました。人物が持っている傘の角度がこれで決まります。

⑥骨組みを描きたわませる
フォルダに設定した「対称定規」を非表示にします。既に描き込んである傘骨レイヤーの不透明度を20~30%にした後、その上から同じ境界効果設定の新規レイヤーを作成し、下の骨組みの位置を見ながら、曲線ツールを使って、外側に骨組みをたわませるとリアルにみえます。

骨と骨が重なる部分で境界効果がつぶれてしまわないよう、同じ境界効果設定の新規レイヤーを何枚か重ねながら新しく描き加えていくとあとで綺麗に見えます。

⑦傘の柄と内側の細かい骨組みを描く
ファイルの一番上に新規レイヤーを作成します。ここに傘の骨が集まる円の中心部分からまっすぐ下に向かって、傘の柄を描きます。傘の柄レイヤーをまっすぐ下にずらします。この距離が、傘内部の細かい骨組みの長さの基準となります。

傘の柄レイヤーの上に新規レイヤーを1枚作成し、骨組みと同じ境界効果設定にします。柄の先端付近から、傘の骨組みと小さな円が重なるポイントに向かって線を引きます。この部分も直線ツールを使用、もしくは曲線ツールですこしたわませながら、柄をぐるっと取り囲むように描いていきます。線を引き終わったら柄を元の位置に戻し、次に内側の細かい骨組みと柄が接する場所と、柄と外側の骨組みが接する部分を覆うように留め金(ろくろ)を描き入れます。

⑧傘の生地を着彩する
最後に傘の生地を塗ります。傘の外枠の線画レイヤーを参照レイヤーに設定し、その下に新規レイヤーを一枚追加して囲い塗りなどで色を塗ります。傘の生地部分に模様を入れたい際は、この囲い塗りをした着彩レイヤーにクリッピングなどをして描き込んで下さい。内側の細かい骨組みを描いた際に使用した小さな円部分も内部を着彩しておきます。

⑨人物と合わせながらブラッシュアップ
柄が人物手前に来る場合は、人物にレイヤーマスクを作成して重なる部分を消しゴムで消したり、柄のレイヤーだけコピペして人物の上に置き、同じくレイヤーマスクと消しゴムを使用して不必要な部分の形を整えます。今回は更にリボンやあしらいを追加したり、途中で配色を変更したりして、最終的にこのような形になりました。もっと傘イラストを拡大して使用する場合は、内側の細かい骨組みに編み込み模様(糸かがり)を描き込むと、より華やかな見た目になります。


和の幻想世界の描き方

 

著者プロフィール

七原しえ

七原しえ
青森県出身・在住イラストレーター。
商業・オリジナルイラスト共に和風・和柄イラストをメインに制作。日本的なイラストを現代風にアレンジした豪華で細密、幻想的な絵柄に定評がある。TCG、ソーシャルゲームイラスト、書籍装画を中心に国内外で活動中。主な経歴として、ポケモンカードイラスト(株式会社クリーチャーズ)、ONE PIECEカードゲーム(株式会社バンダイ)、英傑大戦(株式会社セガ)、FGO 概念礼装(株式会社ラセングル)、マジック:ザ・ギャザリング日本画・浮世絵土地(Wizards of the Coast LLC,)、戦国無双5(株式会社コーエーテクモゲームス)、週刊少年ジャンプ『逃げ上手の若君/松井優征』(集英社)カラーイラスト背景、その他TRPG、ホラー小説、ファンタジー小説を中心とした書籍装画多数。
オリジナル画集『緋花 根の国底の果て 七原しえ画集』(KADOKAWA刊)

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