「美術解剖学」って一体何?生物の構造を理解すれば画がうまくなる

(c) 加藤 公太、小山晋平

絵画や彫刻など美術の分野において、人間や動物の動きを自然に描写するためには、モチーフとなる生物の構造を理解することが重要です。これには、対象となる生物の骨格や筋肉の付き方、それぞれの動物の形質として特徴的な形状などの情報が含まれます。こうした生物の構造や特徴について理解し、美術制作に応用するための知識体系を「美術解剖学」と呼びます。

スケッチで学ぶ 動物+人比較解剖学」は、哺乳類をはじめ鳥類、爬虫類、魚類を含む様々な動物の筋骨格構造やプロポーションを掲載した美術解剖学書。動物の筋骨格を側面、前方、後方、上方から観察した四面図のほか、四肢のより詳細な構造や、個々の動物の特徴的な動き(ネコ科動物のジャンプや爬虫類の歩行など)について解説しています。

著者は美術解剖学者/イラストレーター/グラフィックデザイナーの加藤公太さんと、美術家/美術解剖学者の小山晋平さん。本書は人物の筋骨格構造に注目した「スケッチで学ぶ美術解剖学」(2020年刊)の続編として2021年に出版された書籍であり、前著との最も大きな違いは、特にヒト以外の哺乳類動物に注目し、人間と動物の筋骨格を並べて図示することによって、動物の構造的な類似点と差異を直感的に理解しやすいよう工夫している点です。

収録した動物は、「なるべく美術作品に表現されるケースが多い」(p.2)ヒト、イヌ、イエネコ、ライオン、ウマ、ウシ、ブタ、シカ、ヒグマ、ワシ、ワニ、カエルなど多岐にわたり、さらに創作の作例として、複数の動物の形質を持つケンタウロスやケルベロスなど空想生物についても美術解剖学の見地から解説しています。

スケッチで学ぶ 動物+人比較解剖学

 

(c) 加藤 公太、小山晋平

人間と動物の比較に関しては頭蓋骨や脊椎、手指の形状などについて同列に並べて比較を行っていますが、それぞれ形状、構造の違いを言及するのみにとどめ、その形状に至る進化生物学的な解説や、各動物の具体的な運動機能に関してもほとんど記述していません。これは「いろいろな動物を比較し、それぞれの特徴を探し出せるように解説は簡素にとどめた」(p.2)編集方針に基づいて、あくまでも動物が持つ筋骨格の構造と形状を把握するための知識を伝えることに徹しているものです。

(c) 加藤 公太、小山晋平

その一方で、ツノのある動物の頭蓋骨構造が人間でいえばどこに対応しているのかを比較した文脈の中で「動物のツノが生えている位置は、前頭骨の後端部近くである。(中略)前頭骨はヒトでは額にあるため、鬼などの人形の空想生物で解剖学的に正確なツノを生やすのであれば、額に生やすほうが生物的な整合性が取れる」(p.112)といった具合に、ごく一部ながら作品制作を意識した記述も見られます。

(c) 加藤 公太、小山晋平

また本書においては美術解剖学書で扱われにくい人間の「内臓」や「発生学」に関する解説とスケッチも掲載しており、前著「スケッチで学ぶ美術解剖学」を補完する内容となっています。

本書で学べる知識は、作品として人間を含む動物を描写するにあたってリアリティの再現に寄与するものです。動物の筋肉や骨がどのような形をして、どのようにつながり、連動するのかを理解することは、実在する動物(あるいはそれらをもとにした空想生物)をモチーフにしたイメージに、より説得力を持たせる点に疑いの余地はありません。

(c) 加藤 公太、小山晋平

スケッチで学ぶ 動物+人比較解剖学

関連記事