多くの領域における「技術」は、それぞれの分野において確固たる基本、基礎の上に成り立っているものです。
では、「絵の腕前を上達させたい」と思ったときに基本となる技術は何でしょうか。その一つとしてよく挙げられるのが「デッサン」です。描こうとしているものの形や構造、光の当たり方と陰影の出方をよく観察し、認識し、できるだけ正確に表現すること。それは現職の中にも改めて習うプロがいるほどに重要な技術です。
「比較でわかる初心者デッサンの教科書」では、基本的な図形から立体表現、透視図法、陰影のトーン、素材感、光沢、構図など、絵を描く上で基本的な知識を豊富な作例と図解で解説。改善前と改善後のデッサンを比較できる形で提示し「ありがちなミス」への気づきを促す構成となっています。
本書はアナログ画材でのデッサンを練習する主旨の書籍ですが、本連載ではデジタル環境での練習にも応用して使える知識や概念を中心に掲載します。
本記事では、第1章「基本形体から始める」より、基本的な図形の描き方についての記述を抜粋して掲載します。
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デッサンの始まりは楕円から
デッサンの基本は立方体だと認識している人がいますが、実は楕円が基本になります。楕円の特徴を認識することがデッサンのスタートです。
改善前:下ぶくれになった楕円
「楕円の手前は膨らむ」という勘違いから失敗した形。
改善後:正しい楕円
円が斜めになった状態が楕円のため、決して上下・左右でゆがまない。
改善ポイント:描き方
1. 長軸・短軸を正確な直角になるように引き、それぞれの両端に少しだけ丸みをつける。
2. 各線の先端を少しずつのばしていく。このとき、楕円の端がとがらないように注意する。
3. 線同士をつなぎ合わせる。線が左右対称になっているか、画面を離したり、回転させたりして見比べながら修正し、完成させる。
アドバイス
描くときに「画面を動かしてはいけない」というルールはない。自分の描きやすい方向に画面を回しながら描くときれいな線が描ける。
ラフスケッチの重要性
モチーフの形を忠実に表現するために、外形のラフスケッチをします。何回も比較し、形や比率の違いを直すことが重要です。
改善前:いきなり定規で製図をした円錐
定規でモチーフの長さや比率をはかってそのまま描くと、実際に見たものと違ってくる。
改善後:ラフスケッチから描き上げている円錐
ラフスケッチで大まかな形を取り、定規を使って正確な形にしていく。
円柱は余計な補助線を使わない
モチーフの形状を正確にとらえるために補助線を使います。ただし、補助線が間違っていると、形状に狂いが出てしまいます。
改善前:余計な線が入った円柱の製図
製図を描く際に斜め線を使ってしまうと、混乱の原因になる。
改善後:正しい製図の円柱
楕円のパースと軸のみで成立する。
デキャンタの製図
楕円のサイズが異なっても、構造は円柱を応用した形となる。
間違ったデキャンタ
正しい楕円のデキャンタ
アドバイス
すべての円柱の楕円は、目線の高さに近くなれば水平に近づき、低くなれば正円に近づく。