色気のある男の描き方
第8回

老化現象を「渋み」として表現するには?「ナイスミドル」をかっこよく描くコツ

イラストレーションにおいて、男性キャラクターの美しさ、かっこよさ、セクシーさを表現するポイントは、骨格や筋肉の付き方、仕草、ファッションなど様々な点で女性と異なります。物語においては、線の細い美少年から筋肉質な格闘家、年齢を重ねた中高年男性など、人生のステージや立場によって、採用されやすい男性キャラクターの類型がいくつかあります。

色気のある男の描き方」では、「男性の色気」という抽象的で感覚的な概念をイラストとして表現するためのテクニックを紹介。男性の体の構造と女性との主な違い、男性らしい体つきのバランス、顔と体の各パーツや動きのあるポーズの描き方をはじめ、「美形男子」「ハードボイルド」「格闘系」「ナイスミドル」といった類型ごとの描き分け方までカバーしています。

本記事では、CHAPTER3「キャラ別の色気表現」より、中高年男性のキャラクターを描く際のコツを抜粋して紹介します。

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色気のある男の描き方

映画や漫画で登場する渋みのある中年男性ですが、突出した能力や派手さではなく、培った経験や考え方が魅力的な人物として描かれることが多くあります。発する言葉や仕草に重みがあり、読者の共感、興味を引いています。

さりげない仕草や包容力がナイスミドル系の魅力

渋い中年男性の特徴
会社の上司や武術の師匠など、主人公やその仲間たちを導いてくれる存在として登場することの多い中年男性は、自身の培ってきた経験から発する何気ない言葉や仕草、包容力が魅力的です。年齢を重ねることによりにじみ出てくる、中年男性の渋味に注目していきましょう。

ポイント1:髪型
ミドル系の場合、中分けや七三分け、オールバックなど、額を見せる髪型が多いです。前髪を下ろして額を隠すと若く見え、落ち着きのないイメージになる懸念もあります。

ポイント2:顔と表情
喜びや悲しみ、怒りなどによってできたシワが積み重なり、目つきやシワとして刻まれています。つまり、シワなどを描く時、年齢だけでなく人生観が反映されることも併せて考えながら線を描きましょう。

ポイント3:体型の変化
年齢と肉体の老いは避けられず、若い肉体のままではかえって違和感があります。ムキムキの中年ボディビルダーであっても、肌のツヤがなかったり、付いている脂肪部分が垂れ気味になって見えます。これら老いの部分をマイナス(不潔、だらしないなど)ではなく、老化現象をほどよく取り入れ、いかにプラス要素(渋味)として描けるかがポイントになります。

ポイント4:姿勢と仕草
肩や胸、足の筋肉が衰えると、若いころの姿勢とは違いが見られるようになります。肩周辺の筋肉が落ちてややなで肩になったり、姿勢を保てず猫背になったりします。枯れ系ミドルたちの仕草や持っている小物などで、味わいのあるキャラを描くことができます。

少し崩した清潔な「髪型」

ビジネスマンの定番である落ち着いたビジネススーツに、きっちりとした七三分けの髪型では、真面目さや堅苦しさが目立ってしまうので、少し崩した感じにするのがよいです。崩しを入れることでほどよい枯れ感を出すことができます。ただし、基本は清潔感です。

ネオ七三分け
七三分けを崩した「ネオ七三分け」が若者を中心に人気がありますが、大人でも崩しはアリ。ただし、セットに時間がかかるような髪型でなく、自然に崩れた感じが出るように描きます。

ソフトなウェーブがやさしくおだやかな印象を与えます

オールバック
髪をかき上げたオールバック系。毛先にウェーブをかけることでやわらかな印象になります。

ジェルなどによるべたつきが出ないように前髪をふんわりと描きます

「顔と表情」はシワが重要

年を重ねると、髪の生え際が後退し、皮膚がたるみ、シワが刻まれる、いわば老化現象が起きます。ナイスミドル系はマイナスになりがちな要素を活用して好感を持たせます。「落ち着き」「渋味」「哀愁」として好感度が上がるわけです。

中年男性
中年になると、顔の細胞が劣化し、シワやたるみが目立ちます。描く上での劣化 のポイントは、目と口周り、それに肌の質感。いかに肌の張りをなくし、自然なシワを描き加えるかが重要になります。

  • 笑ったり怒ったりした時にできる表情ジワには、眉間の縦ジワや目尻のシワなどがあります。渋味を強調するのであれば、笑いジワである目尻のシワは抑えて描きます
  • 口周りにできるほうれい線。頬の皮膚や脂肪のたるみによって目立つようになります。鼻袋から口元辺りにかけてなめらかなラインを描くようにします
  • 目の下のたるみは、表情を作る眼輪筋(がんりんきん)のゆるみや、その周辺の皮膚のたるみによって眼球を包む眼窩脂肪(がんかしぼう)が浮き出て見えることによるものです。細かな線を入れすぎないのがコツです。
  • 頬の凹みや頬肉のたるみも加齢のポイントです

喜び
笑うと頬の筋肉が持ち上がります。下まぶたが押し上げられるためにやや目が細くなり、目尻が下がって見えます。同時に目尻にはシワが増え、ほうれい線もくっきりと現れます。

  • 笑うと目尻のシワが目立ちます
  • 笑うことで口角が上がり、ほうれい線がくっきりと出ます

悲しみ
悲しみなどの感情を抑えると、眉間や口元に力が入る傾向にあり、表情にも現れます。眉頭に力が入ることで眉間にシワが寄り、眉尻がやや上がって見えます。口元は一直線に結ばれます。

  • 口元に力が入り、口角が下がります
  • 目頭に力が入り、眉尻が上がり気味になります

目と眉の変化

年を取ると、たるみやシワにより目の形が変わり、眉毛が伸び、太くなります。たるみなどによる目のラインの変化やシワの細かなくぼみなどに注意し、自然なシワの線を描きましょう。

20代
目周辺のシワが少なく、まぶたなどの皮膚にハリ。眼輪筋の存在も目立ちません。人にもよりますが目頭と目尻のラインは平行気味で眉も揃っています。

40代
目の周りの皮膚のハリがなくなりはじめます。まぶたの脂肪が少なくなり、やや奥目のように見えます。目頭と目尻のラインが目尻側に下がってきます。

60代
まぶたが落ちてくるため、目が細くなったように見えます。目尻が下がり、その周辺のシワが目立ちます。眉も下がり、眉毛は1本1本が太くなります。

ひげの表現

キャラクターを描き分けるうえで、ひげは欠かせないアイテム。徹夜明けの無精ひげなど、ちょっとしたシーンで、セクシーで男らしい印象を与えることができます。

無精ひげ
伸びっぱなしで整えていない無精ひげは、かえって男性の無骨さや、バイタリティをイメージさせることができます。また、目の周りのシワを深くし、頬を少しこけさせることにより、多忙な男性の姿を表現することもできます。

ラウンドひげ
口周りに生やしたタイプ。男らしいイメージがイスラム圏や欧米で人気。顎ひげだけよりもさらにワイルドさが増します。

どじょうひげ
唇の両端までちょこっと伸ばした形。バーやカフェのマスターが生やしているイメージがあり、オシャレな印象。日本人に似合うタイプのひげです。

三角顎ひげ
顎の先端部分に集中して生やすタイプの顎ひげ。ひげが生えにくく、量が少ない日本人にも多いタイプです。唇下からひげをつなげるタイプもあります。

加齢による「体型の変化」

年を取ると、顔だけでなく肉体にも老化現象が起きてきます。ジムや肉体労働で体を鍛えていないと、加齢により筋肉量が落ち、部分的に脂肪が増えてきます。ここでは、20代と60代の肉体の特徴と描き方について解説します。

20代の肉体
鍛えていない男性の体型は寸胴型ですが、スポーツ選手のように、鍛えられた上半身は、三角筋や大胸筋の発達で肩から胸にかけて大きく膨らみ、腹部が引き締まることで逆台形になります。腰から足にかけても同様に逆台形を意識して描きましょう。

  • 三角筋と大胸筋の膨らみは、曲線と影を使って表現します。膨らんだ部分は白のまま、凹みやくぼみに影を入れることで立体感を出します
  • 大胸筋の発達で胸囲が大きくなるため、脇から腹部にかけて緩やかに体の線が狭まっていきます
  • 腹直筋などの腹筋群は丸みが少なく、板チョコのような平面的な膨らみを持っており、硬くて強い印象に仕上げます
  • 太ももは、外側に大きく膨らむ大腿四頭筋(だいたいしとうきん)などにより、張りを感じさせます
  • 腓腹筋の膨らみはありますが、膝頭からすね、かかとにかけて、骨や筋の堅さを表すことで、男らしさや若々しさが強調されます
  • 足には筋が張り、強靭な印象を与えます

60代の肉体
若い時に鍛えた体は、皮膚の面積はさほど変わらずに中に詰まっていた筋肉量が減少することで、皮膚にたるみが出ます。さらに、年齢とともに皮膚自体が衰えてハリがなくなり、腹部周辺には贅肉が溜まり、ぽっこりしたお腹になる傾向にあります。

  • 腕が細くなり、大胸筋の筋肉も落ちます。逆台形ぎみに発達していた上半身は、筋肉が落ちることで、寸胴型になります
  • 筋肉量が落ち、たるんだ皮膚を描くには、影よりも線を使って張りのない感じを出します
  • 腹筋は衰え、表面が脂肪で覆われることで目立たなくなります
  • 下っ腹が余分な贅肉で膨らんで見えます
  • 大腿四頭筋が衰えて太ももは細くなります。線や斜線で凹みを付けることで筋肉の老化を表すことができます

渋味を醸す「姿勢と仕草」
枯れた雰囲気が魅力のナイスミドル系。若者にありがちな情熱や若々しさが苦手な女性にとって、自然体で気負いのない枯れ系の中年男性は魅力的に映ります。ここでは、彼らナイスミドル系にありがちな姿勢や仕草を取り上げてみます。

背筋を張る
和装を着こなすのは大人の証。角帯を締めると、腰が落ち着いて背筋が伸びた状態になります。

  • 首と奥襟の間にほどよい空間を作ります
  • 結んだ帯は腰辺りに描き、着物を帯から少し引き出し、腹部と着物の間に余裕を持たせるように描きます

考え込む
顔のシワの影を濃くすることで、より苦悩の表情を作り出すことができます。

うつむく顔の角度により問題の深刻さを表すこともできます。ただ考えているだけの場合は、ややうつむく程度にするとよいでしょう

小物を活用した仕草や表情

たそがれが似合うナイスミドル系に欠かせないのがしゃれた小物。たばこや酒、ステッキや帽子など、バーや書斎、ベランダなどでくつろぐ大人の時間や振る舞いのシーンで使うことにより、キャラの個性を出していきましょう。

帽子
ぺこぺことお辞儀をするのではなく、軽く手に取り会釈するなど、ナイスミドル系を描くうえで欠かせないアイテムが帽子。中折れ帽(ソフトハット)やハンチング、ベレー帽など、キャラの雰囲気に合わせて描き分けましょう。

帽子の中心部分が凹んでいる中折れ帽。紳士的でおしゃれな印象を与えることができます

ステッキ
ダンディな紳士が手にするステッキは、実用的なものではなく、どちらかというとおしゃれなアイテムになります。

背筋を伸ばし姿勢よく描くことで、ステッキがより似合います


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