イラストレーションにおいて、男性キャラクターの美しさ、かっこよさ、セクシーさを表現するポイントは、骨格や筋肉の付き方、仕草、ファッションなど様々な点で女性と異なります。物語においては、線の細い美少年から筋肉質な格闘家、年齢を重ねた中高年男性など、人生のステージや立場によって、採用されやすい男性キャラクターの類型がいくつかあります。
「色気のある男の描き方」では、「男性の色気」という抽象的で感覚的な概念をイラストとして表現するためのテクニックを紹介。男性の体の構造と女性との主な違い、男性らしい体つきのバランス、顔と体の各パーツや動きのあるポーズの描き方をはじめ、「美形男子」「ハードボイルド」「格闘系」「ナイスミドル」といった類型ごとの描き分け方までカバーしています。
本記事では、CHAPTER3「キャラ別の色気表現」より、硬派な男性キャラクターを描く際のコツを抜粋して紹介します。
恐れや愛憎などの感情に流されず、冷酷に任務を遂行する人々を中心に繰り広げられるハードボイルドの世界。マフィアや探偵、工作員など、厳しい仕事環境下にある人々の独特の価値観や世界観を、リアリティを持って描くことが求められます。
硬派な男たちの世界観を描くポイント
ハードボイルドな男の特徴
なにごとにも動じない硬派な男たちを描くハードボイルドの登場人物はストイックなキャラクター設定が定番となっています。幾度もの試練を乗り越えてきた強靭な精神性をいかにビジュアル化し、印象付けるかがポイントになります。逆をいえば、チャラチャラしない、目立たない、流行を追わないトラディショナルな風貌がイメージ作りの基本です。
ポイント1:髪型
オールバックや七三分けなどが主流。目立たず、手がかからない髪型がポイント。ハットなど、紳士的な小物を用いてもよいでしょう。
ポイント2:顔と表情
ハードボイルドでは、笑顔や涙とは縁遠いですが、時折見せるやさしさや悲しみの表情を盛り込むのはあり。いかに抑えつつ、読み手に伝えるかのさじ加減が大切になります。
ポイント3:服装
服装の基本は、トレンディよりトラディショナル。オーソドックスに、渋くかっこよく描けるかがポイントです。
ポイント4:足元
歩き方や足元の描き方も重要。身を隠して敵を待つ時など、足元の描写だけで緊迫感などが表現できるとよいです。
ポイント5:小物
時計やサングラス、お酒、たばこは、ハードボイルドの必需品。さまざまなシーンでその場の雰囲気を高めるアイテムにもなります。
ポイント6:仕草
何気ない仕草や立ち居振る舞いによっても、渋みやかっこよさを演出することができます。若者には真似のできない、経験を重ねて培ってきた「ゆとり」のある仕草を表現しましょう。
ハードボイルドな「髪型」
昔ながらのハードボイルドは、七三分けなどに代表されるきっちりとした髪型が主流でしたが、近年はソフトな髪型を取り入れるケースが増えています。派手になりすぎない短髪系がおすすめです。
ノーマル系
無骨すぎない、ややソフトな髪型。手入れしすぎない毛先のハネた感じと、ウェーブによるボリュームで、程よい印象に。おでこを出すことで知性や大人っぽさをアップしています。
短髪系
剃り込みを入れるなど、サブキャラ系には、流行やストリート系の髪型もあり。スキンヘッドの他、モヒカン、金髪や頭への入れ墨、アフロなどもよいです。
「顔と表情」は凛々しく
20代後半になると、若者の顔付きから次第に大人の顔になります。顔の脂肪や筋肉のたるみ、シワの増加、毛量の減少などにより、顔付きが変わってきます。よくいえば、顔から甘さが取れ、凛々しい大人の顔立ちになります。
主人公系
善良で正義感を感じさせるタイプ。目力があり濁りのない目は、目の形を歪みのない平行四辺形気味にし、黒目を上下センターに描くことで印象がよくなります。きりっとした上がり眉が正義感を表し、顔に歪みがないことで実直な印象を与えています。
- こめかみ上部(前頭骨の凹んだ部分)に影を作るなど、シワや影を加えることでシャープに、大人の顔になります
- 眉間のくぼみも加齢のポイントです
- 無駄な脂肪が取れるため、眉骨や頬骨が目立つようになります
若者と比べ、一般的に喉仏や首周りの筋肉や筋などが目立ちはじめます
表情と視線の描き分け
喜怒哀楽が表情に出にくいハードボイルドな男たちですが、視線を描き分けることで、感情を表すことができます。
見下し
顎を上げて目を細め、視線を下げた表情。自分が優位に立ちたい時や、相手を見下す時に見られる表情です。
身長が同じ相手であっても顎を上げることで見下した視線を送ることができます。
威嚇
強い意志で相手を威嚇する場合、顎を引き、上目づかいになります。眉や口は歪み、憎悪や敵意を持った表情になります。
敵意を持つと顔の筋肉が収縮し、眉間にシワが寄り、口元がきゅっと閉まった状態になります。
「服装」はスーツが定番
ハードボイルドの世界でよく描かれるアイテムがスーツ。着こなしによって男らしさと色気を表現できるのが大きな魅力です。スーツにはさまざまな種類があり、それらの形状と人体を組み合わせて描くにはいくつかのポイントを押さえておく必要があります。
- スーツは美しいシルエットが魅力。体にフィットしていないと美しいラインはできません。肩幅、ウエスト、袖の長さなどを意識して、自然なラインを描きましょう
- スーツを着た男性のセクシーポイントの一つが胸の張りで、極力胸にシワができないように仕立てられています。胸周りにはなるべくシワを描かず、ふっくらと見せるように描きます
- スーツの袖下に見えるのがシャツの袖。ポイントは、スーツよりシャツの袖を1~2㎝出るように描くこと。スーツが体にフィットしている印象を与えます
- 上着をビシッと決めても、パンツのフロントの折り目が消えたり、丈が合わないとだらしない人に見えてしまいます。描く場合は、折り目の線とわずかなシワのみにすることでスタイルよく見えます
スーツの形とVゾーンのバランス
現実においても自分に似合うスーツの形やシャツ、ネクタイとの組み合わせに悩む人も多いはず。ここでは、スーツの着こなしとVゾーンの作り方の基本を押さえましょう。
- 襟は、上襟(カラー)と下襟(ラペル)に分かれています。このニつを結ぶ縫い目をゴージラインといい、鎖骨の高さに位置しています
- スーツに合うネクタイの幅はどうすればよいのでしょうか。基本は、スーツの下襟(ラペル)とネクタイ下部の最大幅の部分が同じ長さであることです
ボタンの数とスーツの種類
スーツを分類する上で、シルエット別には大きく、ブリティッシュ、イタリアン、アメリカンの三つに分けられます。しかし、ファッションにこだわらなければ、ボタン数でキャラに合ったものを選んでもよいでしょう。
二つボタン
いわゆるビジネススーツの定番。一般的なキャラであればこのタイプのスーツでOK
三つボタン
アイビー系スーツ。個性的でファッションにこだわりのあるキャラ向き
ダブルブレスト
恰幅のよい社長や重役、ギャングの幹部など、ある程度ステータスのある人向き
一つボタン
ファッショナブルなデザインが多く、冠婚葬祭やパーティ用などに向いています
スーツ姿の「足元」
スーツ姿が決まった男性はセクシーな印象を与えます。胸板の厚みといった男らしい上半身とともに、足元の佇まいを上手に描くことでさらにダンディーに見せることができます。
パンツと足元
立ち姿において、上着にはほぼシワができない一方で、パンツにはラインに応じたシワと着用ジワができます。シワを入れすぎるとうるさくなりますので、ほどよい数のシワで、足元の状態や動きをスムーズに表すことが大切です。
- 胸部(および背中)から腰にかけて伸びるなめらかなラインと、腰から足元まですらりと伸びるパンツのシルエットに注意しながら描きましょう
- 股間部には横ジワが入りますが、入れすぎると洗濯されずに長期間はきっぱなしの印象を与えます
- 折り目のライン(クリース)は直線の美しさを意識し、しっかりとした直線で、足の表側のセンターになるように描きます
- 立ち姿におけるパンツのシワは少なめにが基本です。余計なシワやたるみは足を短く見せます
- 足の開き具合も重要。またパンツのラインをキレイに見せるなら足は肩幅ぐらい開いた状態で描きます。力強い印象を与えます
椅子に座ったり、胡座(あぐら)をかくと、パンツにはシワができます。シワの入れ方を間違えると、違和感を与えてしまいますので注意が必要です。
走る
伸ばす足のパンツのシワは少なく、長めの直線を数本描くだけにするとスピード感が出ます。また、風を受けることで足の前面のラインが出るため、膝頭が見えるように描きます。曲げる後ろ足には、横のシワを入れることで、走っているイメージを強化することができます。
足が上がることで、お尻の下にもわずかなシワができます縦にシワを入れることで、足の伸びが強調されます
硬派な「仕草」と立ち居振る舞い
年を重ねた男たちのかっこよさは小物やファッションなどだけでなく、何気ない動きの中にも垣間見られます。いわゆる"様になる”仕草や立ち居振る舞いです。描写上のポイントは、その仕草に”慣れ感”を出すこと。動きに心のゆとりを感じさせてこそ、かっこよさが演出できます。
物を持つ(片手)
片手で持った服やバッグを背にかけて持つシーン。堅苦しさから開放され、リラックスした状態で、明るく大胆な印象の男らしい雰囲気が出ます。ちょっとだけ背を反らすように描くことで自然な体勢になります。
腕にできる筋が魅力的に見えます