竹宮惠子さんインタビュー:新刊『プロのマンガテクニック 竹宮惠子 スタイル破りのマンガ術』に込めたメッセージ

「竹宮惠子 カレイドスコープ 50th Anniversary」展初日に、京都国際マンガミュージアムでインタビューに応じてくれた竹宮惠子さん。(c)Keiko TAKEMIYA

果てない宇宙で繰り広げられる戦いを描くSFロマン『地球(テラ)へ…』、少年同士の愛から人種差別までを描いた問題作『風と木の詩』……。マンガ家生活50年を迎えた竹宮惠子さんの諸作品は、常に少女マンガを変革する“カウンター(体制に対抗する文化)”としての歴史であったと自らを振り返っています。

現在、京都精華大学大学院マンガ研究科で教鞭をとられている竹宮惠子さん。マンガ家になるためには、何が必要なのか。インタビューを行い、新刊『プロのマンガテクニック 竹宮惠子 スタイル破りのマンガ術』について、おうかがいしました(以下敬称略)。

プロのマンガテクニック「竹宮惠子 スタイル破りのマンガ術」

――京都国際マンガミュージアムで「竹宮惠子 カレイドスコープ 50th Anniversary」展が始まりました。普段、教鞭をとられている京都の地での巡回展フィナーレということで、感慨深いお気持ちだと思います。京都精華大学では、連載を抱えながら教えられていた時期もあり、大変なご苦労があったのではないですか。

大学で教えるようになってからは、夏休みぐらいしかマンガの執筆はできなくなりました。本当に風邪でもひいたらおしまい。苦労もありましたが、実際にマンガを描くための知識を学生たちは知らないので、身をもって教えたいと思いました。

例えば、商業マンガは製本時の紙の折都合により、16ページを基本としたページ数が求められます。口で教えても伝わらないので、実作を見せるしかないと思い『時を往く馬』という作品を、短編の代表的なページ数で描きました。学生への課題も、最初は8ページの短編を描いてもらっています。短い作品でも完成度を上げられれば、次第にストーリーを作れるようになっていきますよ。

――従来のマンガの技法書は、一枚絵の基本的な描き方の説明が求められてきましたが、実際にマンガを描くにはストーリー作りと構成が重要になってきますね。

そうですね。マンガ家志望者は、自分の「言葉」が読者にうまく伝わっていないことに気づいていない人が多い。このコマ構成では読む順番を間違えてしまうとか、このフキダシの位置では誰のセリフなのか分からないとか、基本的なところを意外と知らないんです。『プロのマンガテクニック 竹宮惠子 スタイル破りのマンガ術』では、京都精華大学で私が行なった講義を公開。学生のネームをもとに、マンガのストーリーテクニックと構成術を教えています。

また、この本では「変奏曲」シリーズ(原作/増山法恵)の創作法を解説しています。同シリーズ『VARIATION(ヴァリアシオン)』は、室内でふたりの人間が織りなす会話が中心ですが、その駆け引きがとてもスリリング。こういう種類のスリルというものはマンガ家が「作るもの」です。単に会話劇を描くだけでは単調になってしまうので、読者を確実に誘導しないといけないことを学んで欲しいです。

『プロのマンガテクニック 竹宮惠子 スタイル破りのマンガ術』より、実作研究「変奏曲」シリーズより創作法を学ぶ。

――『プロのマンガテクニック 竹宮惠子 スタイル破りのマンガ術』には、数々の名作よりカラー原画を掲載。書き下ろしで描き方のポイントを解説して頂きましたが、常に技法や画材について新たな実験をされてきた様子が伝わります。

描いていて、いつも同じ答えしか得られないのでは自分もつまらない。例えば『風と木の詩』では、色画用紙に漂白剤で描いた絵もあります。偶然、漂白剤を落としたら色が抜けたのを見て、作品に生かそうと思ったんです。いつもは影を足して描いていきますが、逆にハイライトを明るく抜いていくことで立体感を表現しました。

近年では、パソコンでマンガを作成する人も増えました。しかし、学生には最初に手描きで描くことを教えています。デジタル作画は、誰が描いても同じテイストになりがちなので、自分の個性を探していくのには向かないように思います。結果として、アナログで上手に描ける人はパソコンでも上手に描けるんです。でも手描きの魅力を知った人は、意外とデジタル作画を部分的にしか使わなかったりする。緊張感がないので面白くないと言うんです。手描きは「失敗を失敗にしない」というか、ごまかす工夫も学べると思います。

竹宮惠子描き下ろしペン画テクニック「ジルベールとブルーの描き方を学ぶ」より。見事なペン入れテクニックを披露している。

 

――本書に掲載するため、『風と木の詩』執筆時に描かれた2冊目のクロッキー帳を見つけて頂きました。ファン垂涎の貴重な資料です。

今回はキャラクターの設定や、少年同士の愛についてのコンセプトのメモが見つかりましたね。やはり当時は、『風と木の詩』の構想を本当にいつも考えていたのだと思います。「美少年Art Gallery」という章では、『風と木の詩』の原画や2冊目のクロッキー帳の掲載に加えて、雑誌「June」の表紙を飾った美少年画も多数掲載されていて見所のひとつです。

『風と木の詩』2冊目のクロッキーノート

 

「June」の表紙画に学ぶ

 

――竹宮惠子さんは、2000年から京都精華大学で教鞭をとられています。約20年の間で、マンガ家志望者、クリエイター志望者に変化は見られますか。

昔の学生の方が、プロ作家になることへの志向が強かったかもしれません。もちろん今も多くの学生がプロを目指していますが、他人の作品と見比べて自作にマイナスの要素が見えると、自信をなくして投げ出してしまう人も少なくない。作品の良し悪しを「自分で決めるな」と、私はいつも言っているんですよ。世の中には「ヘタウマ画」という言葉がありますが、何がきっかけで人気が出るか分からないものです。

私は「評価」からしか次が始まらないと思います。マンガ家を目指す人には、出版社に作品を持ち込んで、編集者から大衆に対するサービス精神を学んで欲しい。今はインターネットで作品を発表することもできますが、そこで評価をしてくれる人が編集者のような判断ができるのかは疑問です。確かにネット上の作品が人の目に止まり、商業デビューすることもあります。ただし、それは読者に伝えたいという意気込みが、描き手にもともと備わっているケースです。

マンガを描くポイントを語ってくれた竹宮惠子さん。(c)Keiko TAKEMIYA

――最後に、マンガ家志望者やクリエイター志望者にメッセージをお願いします。

私の代表作『風と木の詩』は、発表当時は編集者から「タイトルが古臭いんじゃないか」と言われたことがあります。でも、私は普遍的なテーマが描きたかったので、そのタイトルしかあり得なかったんです。『ファラオの墓』の時も、「墓」という言葉をタイトルに使うことを編集者は嫌がりましたが、自分の主張を貫きました。編集者から言われて「ああそうか」と引く時もありますが、撃破する気持ちもすごく大事だと思います。

今の若い人たちは、先生や編集者に言われるとそれに従ってしまう。窮屈だと思っているはずなのに、それに抵抗しないのが不思議です。手塚治虫先生をはじめ、様々なマンガ家の先生方がマンガの表現を広げてきました。マンガ家というのは、「進取」の気持ちがないと成立し得ないもの。もっと自由に、やりたいようにやることを考えてもいいと思います。これは、常に私が言いたいことです。

 

プロのマンガテクニック「竹宮惠子 スタイル破りのマンガ術」

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