イラストレーションはもちろん、写真や映像など視覚に訴えかける媒体においては、登場人物の感情や作品世界の表現に、しばしば「モノクローム」が採用されます。
モノクロの画面は一般的に、カラー画面よりも色彩の情報が少ない分、主題の「明暗」や「形」に意識が向きやすいと言われています。モノクロのイラストレーション、とりわけキャラクターの表現においては、線の使い分けやラインの引き方、質感の表現方法、影の付け方、塗り方を工夫することによって、モノクロならではの独特な雰囲気を演出することも可能であり、それはモノクロイラストが持つ魅力の一つでもあります。
「モノクロイラストテクニック」は、モノクロでキャラクターを作画する際のテクニックを紹介する指南書です。イラストレーター・jacoさんによる詳細なテクニック解説をはじめ、カラーイラストにはない表現手法、イラストのクオリティチェックを行うために見るべきポイントなども紹介するほか、jacoさんが得意とする「角娘」(角の生えた少女)のモノクロイラスト集としても楽しめる一冊にまとまっています。
本記事では、第7章「差し色をアクセントに一色だけ加えてみる」より、差し色によって視線を誘導するテクニックを紹介します。
アクセントに一色加えた場合の効果と比較
これまで黒一色だけで作画する技法について解説してきましたが、ここではモノクロのイラストにワンポイントで一色だけ足す「差し色」について検証していきましょう。これはファッションやインテリアでも使われている手法で、色を足すことで変化をつけたり、主になる色を引き立たせる効果があるとされています。カラーとは違う、差し色をしたイラストの魅力を探っていきましょう。
差し色をしていないイラスト
これはアンバランスな大きな角とリボンにより、頭部に視線が集まる効果を想定したイラストです。しかしリボンと髪の毛が同化してしまい、長い髪の毛がマフラーになっていることも分かりづらくなってしまいました。
目線は頭部に集中してしまいます。
差し色をしたイラスト
大きな角と黒ベタ面が使われ目線が集まるインパクトのある頭部ですが、その頭部のリボンが鮮やかな赤に。さらに同じ色がメガネに、そして胸元のリボン、足元の靴ひもへとリズミカルに配色され、自然と目線が誘導されていきます。一部分に一色を足しただけですが、シックなモノクロイラスト本来の魅力を引き立たせる効果もあります。
靴ヒモにも差し色があるため、目線がつま先まで誘導されていきます。
1~4の差し色に自然と目線が誘導され、イラスト全体の細部をじっくり観察してしまう効果が生まれます。
<玄光社の本>