イラストレーションはもちろん、写真や映像など視覚に訴えかける媒体においては、登場人物の感情や作品世界の表現に、しばしば「モノクローム」が採用されます。
モノクロの画面は一般的に、カラー画面よりも色彩の情報が少ない分、主題の「明暗」や「形」に意識が向きやすいと言われています。モノクロのイラストレーション、とりわけキャラクターの表現においては、線の使い分けやラインの引き方、質感の表現方法、影の付け方、塗り方を工夫することによって、モノクロならではの独特な雰囲気を演出することも可能であり、それはモノクロイラストが持つ魅力の一つでもあります。
「モノクロイラストテクニック」は、モノクロでキャラクターを作画する際のテクニックを紹介する指南書です。イラストレーター・jacoさんによる詳細なテクニック解説をはじめ、カラーイラストにはない表現手法、イラストのクオリティチェックを行うために見るべきポイントなども紹介するほか、jacoさんが得意とする「角娘」(角の生えた少女)のモノクロイラスト集としても楽しめる一冊にまとまっています。
「シンプルがゆえにカラーイラストの作画とは異なる技術や感覚を必要とし、シンプルがゆえに少しのバランスの違いで美しくも下品にもなることも多く、だからこそ上手く描き上げることができた時に感じる『難しいパズルが組み上がったような感覚』は、カラーイラストを描いた時とは異なるものがあります」(「はじめに」より)
本記事では、第1章「モノクロイラストならではの『線』の描き方」より、絵の段階ごとに使う「線の種類」についての解説部分を抜粋して紹介します。
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線の種類とその使い方
ペイントソフトには様々なタッチで作画ができる機能が備わっています。実際に私の場合、ラフや下描き、清書や描き込みに4、5種類の線を使い分けてイラストを描いています。ここではどんな線を使って、どんなものを描いているのかご紹介します。もちろん、この線を使わないといけないというルールはありません。何度も何度も描きながら経験して、自分で描きやすい線を探してください。
ラフ
ラフを描く時の線は、細かい描写は気にせず思いのまま引いています。ここではポーズや構図が確認できればいいので、クロッキーで使うような鉛筆風の線を使っています。
クロッキー感覚なので、鉛筆に近い線のブラシを使用。
下書き
構図が決まったら下描きに移ります。完成をイメージしながら繰り返し線を引き、理想の線を追求していきます。下描きでは太めで柔らかな線が引けるブラシを選んでいます。柔らかな線が引ける、太めのブラシをチョイス。
- 細部も描いたり消したりして形を整えます。
- 納得がいくまで何度も線を引いていきます。
線画
下描きの線をガイドに清書をして線画を完成させます。ここが一番神経を使う作業なのですが、使うのはクリアな線で、肌のラインには強弱もつけています。
クリアな線を使い、納得のいく輪郭線を引く。
- 仕上がった線画には余計な線を残しません。
- 肌はこれ以上描き込まないため、この時点で完成形です。
ラフはどんな線で描いているのか
アイデアを最初に形にしてみるのがラフです。どんなイラストも全てはラフから始まります。ここではラフで使われている線に注目してみましょう。
思いのままに引いた線は、ラフでイメージを形にするため
メモ書きのようなものから完成が見えているような的確な線まで、ラフで使われている線は様々です。ここで取り上げているのは全て本書に掲載されているイラストのラフです。アイデアの源泉でもあるこのラフと見比べてみてください。
- イメージしたポーズを形にしてみます。
- 大まかな構図は描きながら確認します。
下描きはどんな線で描いているのか
下描きは、より具体的にアイデアを形にしていく作業です。髪型や衣装など決めることは沢山あります。そんな下描きではどんな線が使われているのでしょう。
何度も重ねた線でアイデアを練り、理想の線を追求する下描き線。迷いながらも線を重ね、完成のイメージに近づけるのが下描きです。実際に清書をする際に細かい構図の変更を行なっていますが、この段階でアイデアを固めておきます。
描き込む直前の線画をチェック
線画は建物に例えれば設計図、映画ならば脚本のようなものです。どれだけ練られてきたものがかたちになったのか、しっかりと丁寧に描かれているのか。次のステップに進む前に、ぜひ線の完成度を確認してください。
線画の完成度がイラストの出来を決定する
繰り返しになりますが、線画はイラストのベース(土台)となります。土台となるものが不完全では、その上にいくら盛り付けても容易に崩れてしまいます。どうぞ妥協せず、理想の線を追求して線画に取り組んでみてください。
<玄光社の本>