美しい美術解剖図
第1回

美術解剖学でデッサン力がアップする「ダヴィデ像の美術解剖図」

「美術解剖学」という学問をご存知でしょうか。医学の解剖学とは異なり、骨格と筋肉について研究し、構造や動きを知ることで美術制作に活かす学問です。小田隆氏は、著書の「美しい美術解剖図」の中で、レオナルド・ダ・ヴィンチの絵画や彫刻など、過去の名作をもとに美術解剖図を描き、絵画や造形などを美術作品を制作する人のために、肉体の構造を詳しく分析、解説しています。

本記事では、ダヴィデ像の美術解剖図をご紹介します。

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ダヴィデ像
世界で最も有名な彫刻のひとつだろう。大理石に刻まれたその姿は、正確な美術解剖学的理解に基づき制作されている。低い位置から見上げることを前提にしているため、頭部がやや大きく、上肢がやや長く作られている。長らく何人もの作家に制作を放棄され、放置された、一塊の大理石をここまでの作品に仕上げたミケランジェロの情熱と執念は驚嘆に値する。後年の創作と言われているが、大理石の塊を見たミケランジェロが発した言葉、「この中にダヴィデがいる」は、創作を語る上で、最も好きな言葉のひとつである。そして、この大理石像の中に、筋肉と骨格、血管などの様々な組織を見るのである。

全身骨格図

この時のダヴィデは少年であったことから、まだ骨格が成長しきっておらず、親知らず(3番目の大臼歯)も生えてなかったという想定で骨格図を制作した。そのために歯は、切歯2+犬歯1+小臼歯2+大臼歯2=7の歯列となり、合計28本となっている。

 

全身筋肉図

向かって左側は外がい腹ふく斜しゃ筋きんの筋膜が腹ふく直ちょく筋きんを覆っている状態を描いた。一方、左側は腹直筋が露わに描かれている。筋膜は薄いため、体表には腹直筋の盛り上がりと腱画が表出することになる。

 

胸郭もまだ十分に発達しておらず、西洋人の成人男性と比較すると大だい胸きょう筋きんも薄く、全体に華奢な印象を残している。

 

頭部と頸部

ダヴィデ像の頭部はほぼ横を向いている。そのため首は最大限捻られている。

 

筋肉図を見ると最も特徴的に現れるのは胸鎖乳突筋である。ミケランジェロの彫刻作品であるメジチ像でも、この部分は特徴的に作られている。

 

あおりで見る体幹

ダヴィデ像は低い位置から見上げることを前提に制作されているが、もっと極端にあおりで描写した。この位置からでも、胸郭と骨盤の傾きの違いをはっきりと見分けることができる。

 

 

あおりで見ることで、大胸筋の薄さ、華奢な胸のまわり、また前鋸筋と広背筋も確認できる。
前鋸筋と広背筋は、鍛えて引き締まった男性の体に現れる筋肉。華奢ながらも鍛え抜かれた肉体美だということが良くわかる構図である。

 

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美しい美術解剖図

著者プロフィール

小田 隆


小田 隆(おだ たかし)
1969年三重県生まれ。東京藝術大学美術研究科修士課程修了。大
阪芸術大学教養課程准教授、成安造形大学イラストレーション領域非
常勤講師。美術解剖学を応用した人体の描写を研究、授業を担当し
ている。絵画作品の制作と発表、博物館のグラフィック展示、図鑑の
復元画、絵本などオリジナリティに富んだ作品群を多数制作。

ホームページ:http://www.studio-corvo.com/
Twitter:@studiocorvo


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