本屋さんは宝箱〜写真家 鹿野貴司の書店めぐり〜
第2回

世界からファンが集まるアニメの聖地「アニメイト秋葉原」で推し活への第一歩を歩む(かも)

写真家の鹿野貴司が書店を巡る企画、第二弾。さて、どこを訪ねようかと考えていたら、ニュースで30ン年ぶりにその名を耳にした。「アニメイト池袋本店、世界最大のアニメショップとしてギネス世界記録™認定。たしか雑居ビルの中にあった少し暗いあの店が、今やデパートのようなステキな大型店舗に成長していた。

オタク(ヲタク)という言葉が生まれたのは、僕が高校生の頃だった。同じく写真部に籍を置いているクラスメイトの女子が、今風にいえばアニオタだった。クラスには彼女を含め3〜4人ほどアニメ好きがおり、「同人誌」なるものを作って「コミケ」で売るという。当時の僕にはなんのこっちゃであったが、あるとき彼女たちが池袋のアニメ専門店へ行くといい、どういう理由か僕も連れていかれた。シェーキーズでランチ(ピザとパスタのバイキング。当時はたしか600円)をおごるから、荷物を持ってくれといった話だったと思う。その行き先こそアニメイト池袋本店だった。

その後、僕は漫画やアニメにほとんど触れることなく生きてきたが、その間の30ン年に日本は推し活であふれるようになった。大抵の人は好きなアニメ作品があり、推しのキャラがいる。しかし自分はどうだ。先日も仕事先の張り紙に見知らぬ名前があった。居合わせた関係者に「このスミ・ジロウって何者ですかね?」と聞いたら、「それはタンジロウ”です。竈門炭治郎。鬼滅の刃の主人公ですよ」と呆れられた。鹿野のアニメ偏差値は8くらいなのである。

そんなアニメ偏差値8の私にはひとり息子がおり、来年は小学生。保育園でもアニメの話で盛り上がるようで、「パパ、ブルーロックっておもしろいの?」などと聞いてくる。ブルーロックは何チャンネルでやっているんだ?っていうか幼児が見てOKなのか?

いやはや、そんな恥ずかしい父親なんです…とカメラ関連の取材の折、同い年のPICTURES編集長に話したのだが。彼も「いや、うちの子供はもっと大きいけれど、僕も鹿野さんと同じくらいのアニメ偏差値です」という。これはいかん。というわけで書店取材その2は、ニュースで見たばかりのアニメイトさんにお願いすることにした。ただし池袋本店はニュースでたくさん取り上げられたばかりなので、ちょっと視点を変えてアニメイト秋葉原へ伺うことに。

アニメイト秋葉原。中央通りに面した好立地にある。

今アニメの街といえば池袋を連想する人が多いようだが、アニメの聖地といえばやはりアキバではないかと思う。そのど真ん中にある店舗は果たしてどんな雰囲気なのか。取材は朝の開店前に行うことになったが、実際の雰囲気を知るために前日、客として訪ねてみた。

いやはや、店内は輝度的にも雰囲気的でも明るく、30ン年前のアニメイトとはまったく別世界。30ン年前も独特な熱気はあったが、決して明るく入りやすいとはいえず、マニアだけの世界といった印象があった。それが白を基調とした店内になり、アニメ偏差値8の僕でも臆せず店内を歩いて回れる。何より外国人観光客の多さには圧倒された。ざっと見る限り客の8割以上(翌日聞いたら、平均するとそこまでではないらしいが)。グッズ売り場で楽しそうに商品を選ぶアジア系の女子たちもいれば、何冊もの本を抱えながら、書棚を真剣に見つめるゲルマン系と思しき屈強な男性も。そこに外回りの途中らしきビスネスパーソンや、百貨店にいそうな品のよいご婦人、さらに夕方近くなので制服姿の女子高生も入ってきた。客層の広さにただただ驚愕。

というわけで翌朝あらためて取材。前日さまよった店内を改めて案内していただきながら、店舗の歴史を伺った。秋葉原の初代店舗は1997年にオープン。2001年に移転した後、2022年12月に現在の2号館が登場。翌年4月には1号館がその隣に移転し、巨大な店舗に生まれ変わったそうだ。1号館はキャラクターグッズやオーディオ・ビジュアル・ゲーム、さらに画材やフィギュアなどを扱う。7階にはイベントスペースもある。一方2号館は書籍専門。2階にはアニメイトカフェグラッテが併設されている。

アニメイト秋葉原を、アニメを愛し、秋葉原という街を愛するスタッフさんに案内してもらった

今回取材にご対応いただいた書籍担当の芹澤礼秀さん。お店のアピールポイントを伺ったら「うちの店というよりも、アキバの町全体を楽しんでほしいです」。書店員の鑑ですよ!

宝物がいっぱい!キャラクターグッズフロア

1号館5階のキャラクターグッズフロア。僕も時折グッズの商品撮影という仕事があるのだが、この世界は熱いのだということがよくわかった。

ホッと一息、アニメイトカフェグラッテ

アニメイトカフェグラッテの人気メニューは、ドリンクの上のクリームにキャラクターをプリントするグラフィックラテ「グラッテ」。さまざまな作品とコラボしているが、人気キャラクターが登場すると長蛇の列ができることも。

ドリンクなどの注文は、タッチパネルで行う。
©Kazuhiko Shimamoto・MOVIC イラスト:竜田しう
写真はサンプルです。実際の商品は、ドリンクの表面にキャラクターが描かれています。「もったいなくて飲めません〜」というお客さんもいるそう。

新刊フロア

2号館3階の新刊フロアには、人気コミックの最新刊のほか、ノベルスや声優の写真集などが整然と並ぶ。書店の陳列は限られたスペースを有効活用するため、背表紙だけが見える棚挿しが基本。しかしここでは表紙を見せる平置きをベースに、棚挿しも交えて立体的な陳列をしていた。もちろん僕の知らない作品が多いのだが、カバーイラストが次々と目に飛び込んでくることで、眺めているだけで楽しい気分になってくる。なお最新刊以外の既刊はその上、4階と5階に揃う。

2号館3階の新刊フロア。

アニメイト秋葉原 スタッフ 芹澤さんに聞く、いま人気のコミックとは?

コミックは在庫数も売れ筋もその日で上下するそうだが、芹澤さんによると秋葉原店はやや男性客が多く、少年誌の連載など男性向け作品が売れるという。そこでマンガ初心者でも楽しめそうな作品を伺うと、息子も口にする『ブルーロック』のほか、『魔女の花屋さん』『桃源暗鬼』をピックアップしてくれた。

『ブルーロック』(講談社・週刊少年マガジン)

『魔女の花屋さん』(講談社・アフタヌーン)

『桃源暗鬼』(秋田書店・週刊少年チャンピオン)

女性に人気のボーイズラブ(BL)作品も充実。『愛だの恋だの効く前に』『黄昏アウトフォーカス』『愛はふたりのあいだから』、また海外でも人気という『世界一初恋』を挙げてくれた。なんとなくBL=同人誌というイメージがあったのだが、こうして商業出版も増え、『黄昏アウトフォーカス』のようにテレビアニメ化される作品も。ストーリーも単に恋愛要素だけでなく、笑えたり泣けたり多様化しているらしい。

『愛だの恋だの効く前に』(新書館・ディアプラス・コミックス)

 

『黄昏アウトフォーカス』(講談社・ハニーミルク)

 

『WIND BREAKER』 (講談社・週刊少年マガジン)

ちなみに女性客は20~30代が多いそうだが、その層に人気という『WIND BREAKER』が目立つところにコーナーを設けて販売されていた。ちょうど今年(2024年)4月からMBS/TBS系でテレビアニメも始まっている。ヤンキー漫画とのことだが登場人物をみると『BE-BOP-HIGHSCHOOL』のようなリーゼントではなく、今風で爽やか、そして優しそうだ。アニメイト特典として、収納ボックスが付く1~10巻セットもあった。

『今日、駅で見た可愛い女の子。』( フレックスコミックス・COMICポラリス)
アニメイト限定セット 描き下ろしオーロラパスケース付き

先の収納ボックスのように、まとめて買うことでもらえる無料の特典もあるが、1冊だけの購入でも特典はある。

『今日、駅で見た可愛い女の子。』には、アニメイト限定グッズのオーロラパスケース付きセットが販売されていた。これはファンにはたまりません。このような特典付きセットがあることもアニメイトへ買いに来るファンが多い理由だと思う。

これらのアニメイト限定セットは有償特典がついてきて、8~16ページの小冊子や、アクリルスタンドなどが用意されるものもあった。

また店内を回っていて目立つのが英語の掲示。1階には翻訳端末も常備している。もっとも「スタッフの語学力が自然と上がっていて、一般的な案内であれば英語でできる人が多い」とのこと。もし海外から東京へ来る友人知人がいれば、行き先のひとつとして勧めてはいかがだろうか。

 

外国人観光客に人気のイラスト作品集や、ゲーム設定資料集

2号館1階のおすすめコーナーには、イラストレーターの画集のコーナーも。開店後は外国人が買い求める姿も目立った。写真は、人気イラストレーター・ももこさんの初画集『arietta』。

かくして開店前の取材は終了。開店時間の11時になると、一気に人がなだれ込み、店内は先ほどまでの静けさが嘘のような賑わい。僕は『ブルーロック』、PICTURES編集長は『WIND BREAKER』のそれぞれ第1巻を購入した。コミックの単行本を買ったのは人生で初かもしれない。50歳にして初めてのコミックである。

ちなみに説明しておくと『ブルーロック』は高校生を中心としたサッカー漫画。日本はW杯優勝を目指して巨大な寮を設立し、全国からユース世代のフォワードを集める。脱落者は永久に日本代表の資格を失うというサバイバルが始まる。読み進めていくと、コマ割りがプレイのシーンは斜め、学校では水平といった描き分けがあったりして、まあ一体どこを見ているのかという感じではあるが、写真家目線から見ると非常に興味深かったりもする。そしてやはり続きが気になってしまう。これはまた秋葉原へ行かねば。

 

<店舗情報>

アニメイト秋葉原
住所:〒101-0021 東京都千代田区外神田4-3-1
電話番号:03-5209-3330
https://www.animate.co.jp/shop/akihabara/

X(旧Twitter)
https://x.com/animateakiba

 

著者プロフィール

鹿野貴司

1974年東京都生まれ。多摩美術大学映像コース卒業。さまざまな職業を経て、フリーの写真家に。広告や雑誌の撮影を手掛けるほか、ドキュメンタリー作品を制作している。写真集『感應の霊峰 七面山』『日本一小さな町の写真館 山梨県早川町』(平凡社)ほか。著書「いい写真を撮る100の方法(玄光社)」

ウェブサイト:http://www.tokyo-03.jp/
X(旧Twitter):@ShikanoTakashi
Instagram:@shikanotakashi

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