浮世絵の一種として広く知られる「春画」は、浮世絵の中でも特に性風俗を題材とした絵のこと。印刷技術の発展で普及・流行した江戸時代においても多くの人気絵師に描かれた作品の裡には、時代が下って現在にも通じる表現、その原型とも呼ぶべき工夫が凝らされていました。
「春画コレクション 絵師が描くエロスとユーモア」では、春画が描かれた時代背景から、作品を鑑賞する際に押さえておきたいポイント、シチュエーションやテーマ、「笑い絵」としての見方など、春画が持つ様々な側面を解説。「江戸時代のエッチな本」というだけで片付けるにはあまりにもったいない、春画の面白さを知ることができます。
本記事ではPART2「日常生活」より、市井の人々の夜の営みを描いた作品を紹介します。
遊女との濡れ場に子どもが乱入
歌川国貞「花鳥余情/吾妻源氏」(1837年頃)
実力、人気、そして多作ぶりでも評価が高い歌川国貞。彼の作品の中でも傑作の呼び声が高いのが、この春画です。ひと目で着物の模様の細かさや多様な色づかいに心が奪われます。豪華な髪飾りからして女は高級遊女。唐子(からこ)という独特な髪型をした幼児は、遊女の身の回りの世話をしているようです。左下の行灯(あんどん)の光の透け具合、襖に映る光が上にいくほど(行灯から離れるほど)暗くなっているところにも注目してみましょう。
歌川国芳「逢悦弥誠」(おうえやま、発行年不明)
祭の夜の一場面。現代の夏に当たり、左上の男性は枝豆を食べながら水屋の冷水に手を伸ばしています。地面にはスイカの皮も描かれ、季節感満載。トウモロコシを食べている男性は小便で「の」の字を書いています。女性も、尿意を我慢できず「あっち向いて」といいながら放尿しています。
歌川国芳「当世水滸伝」(とうせいすいこでん、1829年)
『水滸伝』の錦絵(にしきえ)で名声を博した国芳らしい『水滸伝』のパロディ春画。女陰をまさぐる男性に、女性は「子どもが泣くからおよし」などといっていますが……、実はやる気満々の様子。子どものオシッコが終わらず、じれったくなってきたようです。散らばる浅草紙が熱い一夜を象徴しています。
歌川豊国・国虎「おつもり盃」(1820年)
男女の交合をじっと見つめている老人。よく見ると刀を差しており、立派な身分のようです。書入(かきいれ)を見ると、「家老」と書かれ、女性を「姫君さま」と呼んでいます。どうやら大名の姫君が町人に扮して男遊びをしているところを、家老が迎えにきた場面のようです。家老の眼が印象的ですね。
喜多川歌麿「会本色形容」(えほんいろすがた、1800年)
喜多川歌麿が描いた“覗き見する人”のいる風景。この図のタイトルの『夕霧伊左衛門』(ゆうぎりいざえもん)は、『廓文章』(くるわぶんしょう)などの浄瑠璃や歌舞伎作品に登場するカップルの名前です。夕霧は太夫という最上級の遊女で、病がち。夕霧は「去年の暮れから2年越しで交合し続けたら、病気もよくなったようだ」などといっています。