長く風景写真を撮っていると、「風景」と「写真」の両方について理解が深まり、結果として写真作品を見る目も培われてくるものです。自分が撮る写真と、他者が撮る写真の違い、それぞれの持ち味に気づくこともあるでしょう。しかしそれは時として多分に感覚的で、言語化しにくいものであったりもします。
「現代風景写真表現」では、萩原史郎、俊哉兄弟が長年培った知識、経験、そして風景写真家としての矜持を「1作品、1エッセイ」の形で多数収録。美しい作品とシンプルな言葉を通して「風景写真によって表現するとはどういうことか」を知ることができる一冊です。
四季を写す中で持っておくべき心構えに関する言葉のみならず、テーマとした風景の考察や撮影時の意図、構図、露出、現像設定なども併せて掲載しており、風景写真のハウツーも学べます。
本記事では第四章「冬の白景は凛として佇む」より、「『レアな現象』に対する向き合い方」を紹介します。
希少現象はただ撮っても能がない
光佄や雲海、虹といった希少現象は、お目にかかれればそれだけで嬉しくなるし、狙って当てることができれば喜びも倍増する。そうなったときの落とし穴は、その現象だけに的を絞って撮影し、満足してしまうことだ。あとになって振り返ると、現象ばかりを追い同じ表現の繰り返しに陥ったことに気づき呆然とする。あのとき、別の視点を持っていればと後悔しても後の祭りである。
つまり、希少現象が出現したときに考えなくてはならないことは、その現象を活かした風景を見つけることにある。実際にその現場にいるとなかなか難しい行動だが、意識しているかいないか、こういう行動をしたほうがいいと知っているかいないかでは、必ず差が生まれる。
まず一旦冷静になろう。周辺を見回そう。頭を働かせよう。きっと何かが見えてくるはずだ。
画題の考察
天空のドラマ:足元方向にレンズを向けているが、そこには空に広がっている彩雲が写っていることを、万が一にも見逃してほしくないという願いも込めている。
現場の読み
海岸に到着すると、空に壮大な彩雲が広がっていた。経験上、彩雲は瞬く間に変化する。これを活かす風景を見つける時間は限られていると感じていた。
構図の構築
岩場に海水が溜まっている場所を見つけた。その水に彩雲を映しつつ、左右の岩場の迫力、遠くの海の風景などを同時に見せる構図を考えた。
露出の選択
太陽が雲からときどき顔を出す瞬間がある。それを岩の先端と重ね、さらに美しい光条を引き出すため、F16に絞り込んた。
撮影備忘録
彩雲が消えないうちに絵になる場所を探すため、岩場を急ぎ足で歩いていたが、今振り返るとそれなりに危険を伴っていたのかもしれない。焦りは禁物と戒めておきたい。
RAW現像
強い逆光での撮影なので、左右の岩の調子が見えない。そこで「シャドウ」を使って回復させ、さらに雲の階調を出すため「ハイライト」もマイナス側へ調整した。
ハイライト:-50 シャドウ:+60