映像の色味は、作品世界の状況や登場人物の心情などを表現するうえで大きな比重を占める要素です。例えば映画などの回想シーンでセピア色になった映像や、ホラーやサスペンスで青みがかった緊迫のシーンを目にしたことはないでしょうか。映像作品におけるこれらの演出は、カラーグレーディングという工程によるものです。
「カラーグレーディングワークフロー&シネマカメラ」では、動画編集ソフトを用いたカラーグレーディングのテクニックを解説。実務でカラーグレーディングを行っているプロが、撮影から編集、グレーディングの手順を説明しています。また、一部の記事ではWeb版「ビデオSALON」と連携して、説明手順を動画で紹介したり、お試し編集・調整用の素材提供なども行っており、読者の理解を助ける試みも行っています。
本記事では、映像写真家の小川浩司さんによる、フルサイズミラーレス「LUMIX S1/S1H」で撮影した6Kムービーから切り出した写真作品についてのレポート部分を抜粋して紹介します。今回は後編。
マニュアル・フォーカスの進化
ミラーレス一眼カメラのマニュアルフォーカスには前々から苦言を呈していた。機械式と異なり電子式であり、ピントリングの回転に比例してフォーカスが動いてくれなかった(ピントリング回転速度に応じてフォーカス位置が変動)。つまり使いづらかった。映像の世界ではシビアなフォーカス・コントロールが求められる(超望遠では特に)。一発勝負の世界だからなかなかAFにも頼れない。他社のマニュアルレンズを使ったり、被写界深度を深くとったり……なんとか工夫して使っていたのが正直なところだ。
だがSシリーズには従来のフォーカス方式から新たに、回転角に応じてフォーカスを制御してくれる「MF時のリニア/ノンリニア」切り替えが機能としてついた! 何度も訴えていた願いがようやく現実となった。きっとすべてのカメラマンが待ち望んだ機能ではないだろうか。しかもだ、なんとピントリング回転角度を90~360°の間で変更できる。大きい回転角度に設定しておけば、被写界深度が浅い4K、6K撮影のフォーカスのシビアな時にもじっくりとピント調節を行える。
また、Sシリーズ純正レンズでは、フォーカスリングをスライドさせるだけで距離目盛が現れMFに切り替えのできる「フォーカスクラッチ機構」を搭載しているものがある。通常はAFとMFの切り替えに使うものだが、ちょっと変わった使い方をしてみた。私が使用した「S PRO 70-200mm f/2.8」では、フルMFスライド時のピントリングの回転角は90°で固定されている。スライドを戻した通常時もフォーカスをMFにしておき、回転角は360°に設定しておく。するとリングをスライドさせることによって2種類のピントリング回転角を利用できることになる。片方では素早く被写体までピント合わせ、もう一方では微細なピント合わせをする。これによって動きの速い野鳥、野生動物に対応することができる。
MFアシスト機能で一部画面を約6倍拡大し、正確なフォーカスサポートしてくれる機能も助かる。これらすべて地味だが素晴らしい機能だ。マニュアル・フォーカス時のストレスは過去のもので、Sシリーズは期待に応えてくれたどころか、それ以上の機能を実現して、驚かせてくれたのであった。
手持ちで小鳥の野鳥ムービー撮影ができてしまう便利さ
スチルならいざしらず、ムービーの場合はこういった映像を手持ちで撮影することは難しかった。S1
とS1Hならボディ内手ブレ補正の効果とレンズの手ブレ補正の協調で、信じられないほど手ブレを抑え
てくれる。これはGシリーズ以上の効果だ。
フォーカスのAF/MFとフルMFを切り替えるフォーカスクラッチ機構。フルMFにすると、回転角度は指標通り90度になるが、AF/MF側のMFにすると、回転角度をリニアかノンリニアか、その角度を90度から360度まで細かく設定できる(ボディのメニューで)。これを変更すれば、フルMF側とAF/MF側で2種類の回転角を即座に切り替えられることになる。
RECボタン付きシャッターリモコンが便利
Sシリーズで一新したパナソニックのシャッターリモコン「MW-RS2」がなかなか良い仕事をしてくれる。三脚での撮影時、パン棒にリモコンを装着し、左手はフォーカス・右手はRECで、中継カメラマンのように手を離さずに撮影に集中できるし、シャッターチャンスを逃さない。ボディのRECボタンを押すことによるブレも防げる。手元で録画を操作するこういったコントローラーは、業務用カムコーダーのズームを制御するレバーが付いたもの(一眼では使えない)がほとんどで、またパナソニックは業界標準的なリモートコントロール用LANC端子と規格が違うためになかなか選びづらかった。この純正品「MW-RS2」はRECボタンに加え、もちろん静止画のシャッターボタンがあり、シャッターONのままロックできるのでbulb撮影やタイムラプス撮影の際に役立つ。
また、静止画撮影の機能で「ハイレゾ撮影」という一度に8枚の画像を合成し約1億画素の写真を撮影する機能がある。これは通常のタイムラプス撮影ダイヤルと併用できないが、通常撮影のダイヤルのままシャッターをオンにし、リモコンでロックしてしまえば、停止するまで約1億画素の静止画を撮り続けるので、12000×6736px (16:9)の12Kタイムラプス(高画素機S1Rなら16K!)を作ることも可能だ(後処理で相当なPCスペックを求められるが……)。
シャッターリモコン「MW-RS2」をパン棒に装着。
シャッターリモコンを利用することで、右手でパン棒を持ったままRECに入れるので、撮影に集中できる。
カスタマイズする
刻々と天気は変わり、動物は待ってくれない、一刻を争う自然撮影。カメラ設定の変更など撮影中に無駄なアクションは極力避け、できることは事前に済ませておきたい。Gシリーズから引き続き、Sシリーズでもボディ左上部モードダイヤル内、C1〜C3に自分好みの設定を記録させておき、即座に呼び起こすことができる。また各ファンクションボタンや前面ファンクションレバーにも、機能を割り当てができる。LUMIXユーザーに聞くと案外使ってない人が多いようだ。
例えば私の場合、普段は4K/60pに設定し、「C1」にスローモーションの FHD120p、「C2」は撮像範囲をAPS-Cにして望遠に、「C3」は6Kにして超高画質撮影……といったように、事前に割り当てておき、その場の状況によって変更する。野鳥の羽ばたく姿をスローモーションで録画したい時、突然群れで飛翔した時には即座にダイヤルを回し収録する。「カメラメニューに入って設定を変え、フレーミングしなおし、フォーカスを合わせて」いたら、もうそこには被写体は去り景色しか残っていないのだ。またファンクションボタンもよい。私は表示系の機能(ゼブラ・水平器・ピーキング)を割り当てて、天候が刻々と変化するたびに切り替え、露出を合わせるなどして使っている。この痒いところに手が届く機能たちが、ネイチャーフィールドでの数少ないシャッターチャンスをモノにし、撮れ高を増やしてくれるのだ。
ネイチャー撮影ではC1からC3への登録は必須。
作品を創る道具として多機能
ずっとGHシリーズで動画撮影してきた私としては、今回S1とS1Hをネイチャーの現場で撮影してみて、素晴らしい結果を得て、進化と革新を感じた。フルサイズとなったことによる恩恵は大きい。GHからSへの進化は今までの延長線にあると想像していたが、実際には画質、高感度、手ブレ補正、その他の機能を含め、数段飛ばしで飛躍していると感じた。Sシリーズは重いという意見を聞くが、そんなことはどうでもいいぐらい、ファインダーやモニターに映る画は美しく、実際の映像も高画質になっている。軽さとフットワークを重視するならばマイクロフォーサーズだが、クオリティ重視なら絶対にSシリーズだ。映像制作ならばS1Hが圧倒的におすすめだが、6Kやプロ向け動画機能には欠けるが、S1も素晴らしいカメラで、コストパフォーマンスにも大変優れる。
S1とS1Hは撮影において無駄な時間を省き効率を高め、より一層クリエイティブな作品作りに専念させてくれる「わくわく」するカメラである。またパナソニック・ライカ・シグマの業界巨匠たちが肩を組んだL-mount同盟による今後のレンズ展開にも期待したい。