多くの領域における「技術」は、それぞれの分野において確固たる基本、基礎の上に成り立っているものです。
では、「絵の腕前を上達させたい」と思ったときに基本となる技術は何でしょうか。その一つとしてよく挙げられるのが「デッサン」です。描こうとしているものの形や構造、光の当たり方と陰影の出方をよく観察し、認識し、できるだけ正確に表現すること。それは現職の中にも改めて習うプロがいるほどに重要な技術です。
「比較でわかる初心者デッサンの教科書」では、基本的な図形から立体表現、透視図法、陰影のトーン、素材感、光沢、構図など、絵を描く上で基本的な知識を豊富な作例と図解で解説。改善前と改善後のデッサンを比較できる形で提示し「ありがちなミス」への気づきを促す構成となっています。
本書はアナログ画材でのデッサンを練習する主旨の書籍ですが、本連載ではデジタル環境での練習にも応用して使える知識や概念を中心に掲載します。
本記事では、第2章「トーンをつける」より、静物の立体感を表現する描写方法に関する技術の一つを抜粋して紹介します。
立体表現の技法 〜描影法〜
“見えた通り描く”のではなく、“見えたように表現する”ことがデッサンのコツ。描影法は物体の陰影を描くことで立体を認識させる技法です。
改善前:立体感を表現できていない
光を使って陰影の明暗をつけていないため、立体感が表現できていないデッサン。
赤いパプリカのデッサン
- 明暗がはっきりしていないため、光の方向がわからない。
- モチーフの固有色を優先して描いてしまい、立体感が出ていない。
改善ポイント:影文字のイメージで描影法を知る
文字を普通に描くと立体感は表現できないが、影を描き込むことで立体感を認識できる、という錯覚が発生する。
普通に描いたローマ字
影部分だけを描いたローマ字
アドバイス
そのまま写しても立体に見えない。デッサンは二次元のため、平面に立体があるように見せる「トリックアート」と考えられる。
改善後:明暗がはっきりしている
大まかな調子を乗せる
しっかり調子を乗せる
アドバイス
描影法は、大まかな調子を乗せるときに決めた明暗関係が、最後まで残っていることが大切。