いわゆる「ヒーローもの」やSFに関連したテーマの物語においては、しばしば複雑な機構を持った機械やロボットが登場します。変形や合体など、世界観設定やコンセプトに沿ってデザインされ、人間には不可能な動きによって作品世界を表現する登場メカたちの魅力は、いつの時代も人々を惹きつけてやみません。
「メカニカルデザイン解体新書」では、「エルドランシリーズ」や「勇者王ガオガイガー」などのメカニカルデザインを手がけたメカニカルデザイナー・やまだたかひろ氏がデザインしたロボットや武器、乗り物の設定資料をもとに、デザインの考え方やテクニックを詳細に紹介。
キャラクターのラフやアイデアスケッチ、内部構造図のほか、変形ロボットの仕組みや、アニメーション化や玩具化を前提としたデザインの考え方、描き方の違いなども解説しています。
やまだたかひろ氏が過去に手がけた「熱血最強ゴウザウラー」や「勇者指令ダグオン」など多くの作品のイラストも収録している本書ですが、ここでは「コンセプトから考える基本のテクニック」の章より、オリジナルの変形メカを表現するためのテクニックに関する記述を抜粋して紹介します。
>この連載の他の記事はこちら
変形するメカの基本的な描き方
恐竜をモチーフにした変形メカの企画を想定して、変形メカのギミックの考え方や描き方を紹介していきます。今回はデフォルメタイプの恐竜メカがリアルタイプの恐竜メカに変形するというものです。
ストーリー設定:主人公とその友だちの3人がそれぞれ恐竜メカと出会い、友情をはぐくみ、共に成長していく物語。敵が登場して恐竜メカ同士の戦いになったり、様々な困難に立ち向かっていく主人公たちと恐竜メカ。恐竜ロボットはティラノサウルスタイプ、プテラノドンタイプ、トリケラトプスタイプの3タイプがあり、変形して戦闘モードになります。
ロボットのコンセプトを立てる
恐竜モチーフに、恐竜が人型ロボットに変形するものはありきたりなので、デフォルメ恐竜メカからリアル恐竜メカに変形して戦闘モードになるギミックを提案。さらに主役メカは単体でロボットに変形するという3段変形に。
01
ティラノサウルスをモチーフに、ギミックを考えながら、青の色鉛筆でラフスケッチを描いていきます。デフォルメタイプの頭がリアルタイプの胴体になります。リアルタイプの頭部はデフォルメタイプの口の中から出てくるギミック設定を漠然と描いています。この時点で足は共通してそのまま使用しています。
- 腕や口が開いて頭が出てくるというギミックをスケッチ。
- デフォルメタイプからリアルタイプに変形。
- しっぽが伸びるギミック。
02
ラフスケッチからディテールなど細かく描き込んで、フォルムやギミックを検証していきます。この時点で、フォルムがティラノサウルスぽくないとか、ギミックが差し替え式など、課題が出てきたので、それを次の段階までに検証していきます。
- 後足や前足は差し替え式で、外して取りつけるというギミックに。これは今後の課題に。
- しっぽが伸びるギミックはさらにトゲが出てくるようになります。
03
デフォルメタイプの頭部を上下逆にしてリアルタイプの胴体にすると都合が良くなり、フォルムも狙い通りに。足もそのまま流用だったものをデフォルメの時点では“コ”の字に曲げて短くし、リアルの時は伸ばして長くなるように変更。
- 前足は後足のつけ根部分から出ている状態に。
- 足は“コ”の字に曲げて、短くするというギミック。ギミック検証をするために、この平面図が重要。
- 胴体になるデフォルメタイプの頭部が上下逆に。
- デフォルメタイプの前足はたたんで、ここに収納。
- 罫線は水平に絵を描くためデッサン狂いをしないための補助線です。
04
青の色鉛筆で描いた画稿をコピーして、黒い線の画稿にします。コピー機のフタを開けたまま、濃度を一番濃い状態にしてコピーをすると、用紙の罫線(グラフ用紙を使った場合)や軽く描いた線は飛んで主線だけが黒く残ります。コピーしたものを下絵にし、上からなぞって次のラフを描きます。これを繰り返していきます。
05
出来上がったコピーを下に白い紙を重ね、さらに青の色鉛筆で次の段階の画稿を描いていきます。
POINT:熟成期間を取って再考する
変形メカは少ない工程で、がらっと違うフォルムに変わるのが望ましいです。方向性が決まったくらいで、1週間程度寝かせて熟成させる時間があった方がいいでしょう。
06
ディテールを整え整合性を取りながら、下描きをします。ティラノサウルスの顔は若干悪党顔にして、さらに未来的なフォルムにしようと思い、ラインやパーツなどディテールを増やしています。デフォルメタイプの前足の部分も少し位置を変更しています。ここからクリンナップをして完成に。
- 複雑になりすぎてわかりにくくなったら、赤や黒など違う色で上描きします。
- 頭部がティラノサウルスっぽくなかったので、確認のために頭部のラフを描いています。
POINT:作業上便利な青の色鉛筆
暖色系は目が疲れるので自然と青の色鉛筆を使うようになりました。コピー機の濃度を上げてコピーすると、薄い線が飛んで、主線だけが残るので下描きラフで使用しています。青の色鉛筆はコピー機が反応しにくいため、時間がない時は青色で下描きをし、直接上から鉛筆で仕上げてそれをコピーすると鉛筆で描いた部分だけが残ります。
当初は3体の恐竜ロボが合体して人型ロボットになる予定で考えていましたが、この段階で1体が3段変形にすることに変更。そのため右の画稿のように人型に変形するギミックも含めて検討を始めます。
ティラノサウルスタイプ
ティラノサウルスをモチーフに3段変形をする恐竜メカ。通常はデフォルメタイプの状態で、主人公の少年と友だちになって行動を共にします。主人公の少年がピンチになった時、リアルタイプに変形し戦闘モードになります。
デフォルメタイプ恐竜メカ
リアルタイプ恐竜メカ
POINT:最終的なクリンナップは2HやHの硬い鉛筆で
最終的なクリンナップはHもしくは2Hで描きます。芯の硬い鉛筆なのでシャープで細かい線を描くのに適しています。鉛筆の先も鋭角に尖らせるために、鉛筆削りのリミッターを外したり、紙にこすりつけて尖らせて、細い線を描きやすいようにします。
Techique
上の決定稿は工程の06の画稿をベースにクリンナップした画稿です。ラフ画稿の上に白い紙を重ね、鉛筆で清書していきます。細かいディテールなども描き込んで完成させます。
最初は怪獣のようなフォルムの頭部でしたが、よりティラノサウルスらしい恐竜のフォルムに修正しました。画稿をちょっと寝かせている期間に図鑑や映画をチェックしたりします。
デフォルメの頭部はリアルタイプの頭部や前足が中に収納されているため、これ以上パーツが入れられないので、目の部分は回転するだけで瞳が排気口に変わるというギミックに変更。