2023年10月16日に写真家 丹野清志さんの著書「写真力を上げるステップアップ思考法」が発売となりました。この書籍は、写真を撮るための「考える力」を身につけるための本ですが、誌面には「写真」が一枚も掲載されていません。また、写真を上手に撮るための技術的なアドバイスは、ひとつも掲載されていません。スマートフォンや高性能のデジタル一眼カメラで、誰でも簡単に美しい写真が撮れて、いつでもネットで世界中に公開できる世の中になりました。しかし、趣味として写真を始めた人は、楽しくなってハマればハマるほど「写真を撮る意味ってなんだろう?」「なにをどう撮ったらよいのだろう?」ということがわからなくなってゆく人も多いのではないでしょうか?
本記事では、丹野さんが著書「写真力を上げるステップアップ思考法」を執筆するに当たって、すべての写真を撮る人たちに伝えたいメッセージをご紹介いたします。
初心者の方からベテランの方まで、ちょっと立ち止まって「写真」について考えてみませんか?
写真を見る、撮る、そして見せるための思考法
鉄道が好だから列車を写す旅をしている、花火が好きだから各地の花火を追いかけている、動物が好きだから動物園に通っている、宇宙に関心があるので天体写真に夢中、猫が好きだから猫写真にどっぶり、野鳥が好きだから、花が好きだから、山が好きだから、滝が好きだから撮っている。いつだったか旅先で会った人は全国の神社パワースポット巡りをしていると言い、狛犬を撮り集めている人もいる。
といったように、好きなものを写真に記録することに熱中している人は多く、写真人口の大半を占めているのではないかと思います。
趣味としての写真で、自然風景、祭り、人物と被写体が決まっていれば写真の内容が分かります。が、「写真やってます」とか「思いつくまま気の向くままに写真撮ってます」と言われると、一般にはなんだかよく分からない。この本の読者は、“分からない写真”を撮っている人ということになるのかもしれません。
撮影技法を教えるような入門書であれば撮り方の手ほどきですから写真をたくさん掲載した構成になるのかと思いますが、写真撮影の技法書ではないので写真は1枚もありません。写真があると思考が誘導されていくことになると考えたからで、読みながらそれぞれの写真世界を作ってほしいと思うのです。
コンピュータに考えることを奪われていませんか?
日常のすべてがコンピュータ頼りになってしまっている今、考えることをしなくなってしまったようです。旅の行先はカーナビまかせ、街歩きなどはネット情報に従うように動いている。写真を撮ることも、デジタルカメラまかせにしておけばいろんなことをやってくれる。極端に言うとカメラがアート作品を作ってくれるのだから、それらの中から気に入った画像を選べばいいということになる。
様ざまな電子機器を、作品を作成するためのツールとするなら、現代の写真はそれらを駆使して作りあげる時代なのかもしれません。でも、コンピュータ機器は人間の思考力を奪いつつあります。
写真を撮るという行為は個として向き合う世界ですから、アナログ感覚でいたいと思うのですね。ということで、デジタル機器をいかに使いこなしていくかということからちょっと離れて、なぜ写真を撮るのか、について一緒に考えてみませんかというのが本書のコンセプト、考える写真力を豊かにするための素材です。
自分が考えていることと違うところがあるかもしれません。でも、それはそれでいいのであって、写真との関わり方がみんな違うから作品が面白くなるのです。
初心者もベテランもない、ワクワクする新鮮な気持ちで写真を撮りましょう
初心者、中級者、上級者・ベテランという言い方があります。カメラも初級機とか中級機、上級機と言っている。でも、誰もが簡単に写真を写せるデジタルカメラ、スマートフォンの時代の今日では、初心者もベテランもありません。カメラを手にして間もない人が初心者だとして、その人が写真ギャラリーなどで写真展を開いたとすれば写真家となるわけで、自分の思いを写真で表現しようと撮ったものは、すべて作品になるのです。スポーツの世界ではよく熟練者が「今思うことは何か」と聞かれて「初心に戻って」という言い方をしますが、写真も「カメラを構えて写す」ことにわくわくしたころの新鮮な気持ちで撮ることが基本です。
現代は「手法」とか「技法」などはあふれていて、どんなことだって写真化できる時代。いま、写真を撮る人に求められるのは写真で何をメッセージとして伝えたいのかということです。写真を見る人は、作者の想像力と思考力にふれたいのです。
「写真力」とは上手く撮るための技巧を凝らすことではなく、撮りながら「考える力」を持続することです。本書が、その力をより豊かにするヒントになればと思います。