写真に限らず、芸術表現の場ではしばしば「自分らしい」表現に価値があるとされます。ではそこで求められる「自分らしさ」とは端的に言ってどのような過程を経て作品として発露するものなのでしょうか。
「個性あふれる“私らしい”写真を撮る方法」著者の野寺治孝さんは写真表現において大事なこととして、撮影者の「感性」と「個性」を挙げています。本書では機材やテクニックも重要な要素としながら、心構えや考え方に重点を置いて、「私らしい写真」を撮るヒントとなる72のテーマについて語っています。
本記事では第1章「これからずっと写真を続けていくために」より、「私らしい写真」を撮るにあたり大切にしている3つの要素について紹介します。
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写真を撮るための大切な要素とは感性、被写体、そして技術の3つ。
“私らしい写真”を撮るには何が必要でしょうか。私は次の3つの要素が最低限必要だと考えています。そのどれか1つが欠けても成り立ちません。その3つの要素をバランス良く写真に反映させることが大切です。
まずは『感性』です。被写体と出合ってどう見て、どう感じたのか、そしてどのように表現したいのかということです。黒猫の写真を作例に挙げます。この猫は地域猫ですが実のところ、公園に出没する野良猫です。整った顔立ちで人懐っこく可愛いのですが、私が最も惹かれたところは”野性味のある目”です。飼い猫にはない野良猫ならではの「敵が来たらいつでも戦闘態勢」という緊張感があり、媚びずに凛としている面があります。それを表現するためにピントを浅くして目を強調し、露出はアンダーにしました。ただそれは”私の感性”なので他者にとっては黒ヒョウのように撮りたいのかもしれないですし、そもそも黒猫に興味が湧かないかもしれません。それは人それぞれの感性なので良し悪しではありませんから自分の感性で撮ればいいと思います。
次に『被写体』です。写真は撮る対象があって初めて成立します。たとえば散歩中に花を見つけ「あ、きれい!」と感動してカメラを向けて撮ります。感動の大小はあってもそれがなければシャッターは押しません。写真を撮るとは”被写体から受けた感動を表現する行為”とも言えます。私の場合は魅力的な被写体にはワザを使わず、厄介な被写体ほど様々なワザを駆使する傾向があります。料理でいう”新鮮な食材ほど手を加えない”と同じことかもしれません。
最後に『技術』です。どんなに魅力的な被写体に出合ったとしても、それをイメージ通りの写真に表現できる技術がなければ上手くいきません。具体的には「ピントを思ったところに合わせられる。ブレなく撮れるシャッタースピードを選択できる。イメージ通りの明るさで露出調整ができる」の3つは基本的技術なので身に付けましょう。それと並行して「被写体をどのように、どの場所に入れて撮るのか」といったフレーミングと構図をマスターしていけばいいでしょう。
場面に応じて使える技術力はスポーツと同じで反復練習と経験でしか身に付きませんので、日々研鑽を積んでください。ただし技術は身に付けるほど不必要に使いたくなるので要注意です。