和風ファンタジーの世界観は、アニメやゲームなどで人気のある類型の一つです。わたしたちが歴史の中で垣間見る過去の日本とは似て非なる日常生活の様相には、その世界でこれから繰り広げられる物語への期待を掻き立てる魅力があります。
「和の幻想世界の描き方」では、イラストレーター七原しえさんが、イラストの背景にある設定のほかアイデアを発想するコツ、イラストに仕上げるまでの制作手順を詳細に解説。世界観の設定からイラストレーションを起こす技術を身につけられる一冊となっています。
本記事では第1章「春霞」のイラスト製作工程のうち、ラフの段階から用意しておくべきレイヤー構造やファイル構成について解説します。
レイヤー構造解説
ファイル構成(使用ソフト:ClipStudioPaint)
ラフも完成稿も基本は同じファイル構成です。人物・傘・人物前後の木・背景など、それぞれパーツごとに作成して組み合わせ、1枚のイラストとして表示させています。パーツ単位は1フォルダ、どのフォルダ内も『線画レイヤー』『下地レイヤー』、下地にクリッピングした『着彩レイヤー』が基本セットです。
フォルダ内の着彩は固有色(他から影響を受けていない物体自体の色)、そしてフォルダに乗算レイヤー(明暗調整用・影用)やオーバーレイレイヤー(明るさ・光の色等の加筆用)をクリッピングして固有色の対象に色の変化を加えていきます。
和紙などの質感レイヤーは最後にファイル構成の一番上に乗せてイラスト全体にテクスチャを付加します。ラフの段階から細かくフォルダやレイヤー分けをするのは面倒かもしれませんが、ラフで作成した乗算レイヤーやオーバーレイレイヤーは完成稿を制作する際にコピー &ペーストをし、ブラッシュアップ(形を整える事)して再利用します。ラフ-完成稿間の色やタッチなど仕上がりの乖離がなくなり、また清書の段階で影や明るさを一から描き直す必要がないため、最終的に制作時間の短縮にもつながっていきます。
1. テクスチャ
ファイルの一番上に乗せる質感用レイヤー。オーバーレイや質感合成で画面全体に和風の和紙のようなテクスチャを与えます。
2. エフェクト
クリスタの素材から『薔薇の花びら』ブラシをお借りしました。レイヤープロパティで境界効果『フチ』設定を加えています。
3. 手前の木
木の幹と桜の花は別々のレイヤーに描いています。枝に複雑に絡む傘リボンはこちらの桜フォルダに一緒にまとめました。桜の花は自作の花ブラシで描いています。
4. 傘リボン
傘から垂れ下がるリボン。人物と手前桜の木の間に配置しています。人物顔が隠れてしまわないよう位置に気をつけます。
5. 人物+傘
別描きで作成した和傘を加えた人物セットです。背後の桜の木と人物が重なる部分はレイヤーマスクで削っています。
6. 背後:傘パーツ
和傘のてっぺんの装飾と人物背後の和傘リボンを描き足しています。ほとんど人物と重なってしまうので、隙間から見える一部分のみ描き足し。
7. 背後:桜の木
こちらも人物と重なる部分はにはあまり手を加えていません。向かって右の幹が人物や手前枝の間から見えるので、そこのみ丁寧に加筆しています。
8. 背景
ラフで描いた背景をそのまま使用。ブラッシュアップも必要ないようだったので、ラフをまるごと転用しています。
全ツール紹介
ブラシ・消しゴム
『鉛筆:濃い鉛筆』
『薔薇の花びら』
『水彩:四角水彩』
『エアブラシ:柔らか』
『墨筆Ⅱ テクスチャ入二色 A』
『ペン:Gペン』
『桜2』
『スナップ消しゴム』
『柔らかめ』
レイヤー効果
『レイヤーカラー』
『境界効果:フチ』
『境界効果:水彩境界』
その他機能
『ガウスぼかし』
『塗りつぶし:らくらく囲い塗りツール』
『表示色を取得』