長く風景写真を撮っていると、「風景」と「写真」の両方について理解が深まり、結果として写真作品を見る目も培われてくるものです。自分が撮る写真と、他者が撮る写真の違い、それぞれの持ち味に気づくこともあるでしょう。しかしそれは時として多分に感覚的で、言語化しにくいものであったりもします。
「現代風景写真表現」では、萩原史郎、俊哉兄弟が長年培った知識、経験、そして風景写真家としての矜持を「1作品、1エッセイ」の形で多数収録。美しい作品とシンプルな言葉を通して「風景写真によって表現するとはどういうことか」を知ることができる一冊です。
四季を写す中で持っておくべき心構えに関する言葉のみならず、テーマとした風景の考察や撮影時の意図、構図、露出、現像設定なども併せて掲載しており、風景写真のハウツーも学べます。
本記事では第一章「春の花々はおぼろで麗しく」より、「作品タイトル」に関する記述を紹介します。
稚拙な画題に共感できるか?
軽妙な内容を持った作品には、それに見合ったウイットに富む画題をつけるのは賛成するが、深い内容を持ちながらも稚拙な画題がついている作品に出合うと心から残念に思う。
作品に画題はいらないという考えがあることは承知しているが、現代の風景写真は心情に寄り添った表現が多く、そういう作品は自らの思いや意図を込めた画題が添えられることで、より深く相手に浸透していくはずだ。せっかく時間をかけて作り上げた作品が相手に届かないのは空しく悲しい。
多くの表現者が風景写真を志し、個展や写真集を目標にしている今こそ、画題の重要性が語られるタイミングなのではないかと思うがいかがだろう。
画題付けは決して簡単ではないが、本書では「画題の考察」を行っているので、それがヒントになれば幸いである。
画題の考察
戸惑いの行方:サクラの花びらが流れる方向は定まっていない。あっちへもこっちへも、風に翻弄されて流されているように見える。翻弄され戸惑う様を画題に込めた。
現場の読み
風は一定方向に流れておらず、強い風でもないので、勢いのある印象の花筏(はないかだ)は表現できない状況。スローシャッターを使うと、花びらはさまようように写ると推測した。
構図の構築
特徴的な水溜りもなく、草もまとまっていない、花びらも満遍なく散っている、そんな場所をあえて選んだ。なぜなら、花びらが動く様子だけを強く感じられることが狙いだから、ほかの要素に強い印象は不要なのだ。
露出の選択
画面全体にピントが来ているような印象にしたかったので、俯瞰気味のアングルからF16に絞っている。
撮影備忘録
前夜から降り始めた雨がサクラの花びらを散らしていることは想定済み。ただ、雨が強く降り過ぎていて難儀した。
RAW現像
曇天の下での撮影なので、あとから調整する必要はほとんどなかったが、明るさだけは吟味した。写真の明るさは、その写真の第一印象を決定付けるからである。
露光量:+0.65