夜鉄
第9回

夜鉄テクニック解説編 ピントを合わせずに遠ざかる列車の存在感を残す

いわゆる「鉄道写真」は、写真撮影の一ジャンルとして広く認知されていますが、日常の中でカジュアルに撮れる一方で、作品に仕上げるという観点からは、動体・風景写真の技術や、写真芸術表現の感覚など、撮影者に複合的な素養を求める側面がある、奥の深い撮影ジャンルです。

風景写真家として知られる相原正明さんの著書「夜鉄(よるてつ)」では、夜行列車をテーマに撮影した作品集「STAR SNOW STEEL」と、夜に列車を撮影する際のテクニック解説を併せて収録した実践的なガイドブックです。

推奨する機材の方向性やロケハン時の留意点、写真セレクトの考え方、完成イメージを想定した絵コンテから撮影地周辺の見取り図まで、相原さんの「作品レシピ」とも呼ぶべき情報が詰まった一冊となっています。

本記事では「夜鉄テクニック解説編」より、絵コンテで作品イメージを固定した一例を紹介します。なお、ここで紹介した作例は、本書前半に掲載している作品集「STAR SNOW STEEL」に収録されています。

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夜鉄

ピントの位置で画作りが変わる

FUJIFILM X-T2 XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WR (328mm相当) 絞り優先 AE (F7.1・1/7秒)-2/3EV ISO8000 WB:白熱灯 三脚使用 2月19日 18時07分撮影 富山県・富山地方鉄道 月岡駅

1. Location

水たまりのあるホームと直線の鉄路

田園地帯にある小さな駅。ホームから山に向かって一直線にレールが伸び、手前には「ここから山だよ」と合図するかのごとく信号機が立っている。撮影は2月の半ば。緩んだ寒さがホームに雪解けの水たまりを作り出していた。

山に向かってホームとレールが伸び、駅の周辺は田園地帯と背景もよい。また西日の射す方角もよく、画を作りやすい。

2. Concept

赤い色の競演

ホームの水たまりに映る、列車のテールライトと信号機の赤色が印象的。レールに反射する光もまた同様だ。列車が発車して数秒後に信号機が青から赤に変わる、そのタイミングで赤色の競演を狙う。ピント位置で印象が変わるため、写真展では最後まで選定に悩んだカットだ。

3. Technique

暗闇での目印が撮影を迅速にする

100~400mmの望遠レンズを使用するため、撮影前に位置決めを行う。三脚を立てる位置にテープでマーキングをすることで、乗客が去った後に素早く機材をセットできる。

レールに命があるように見せる

超望遠レンズを使い、圧縮効果でレールをまるで闇夜をうごめく蛇のように表現することが出来た。望遠レンズの役割はただ遠くを撮るだけではない。

細部の描写が作品の成否を分ける

手前にピントを合わせると、遠景の列車はボケて光の点になり輪郭が不明瞭になる。ISO8000でシャッター速度を速めることで列車の輪郭が明瞭になるようにした。

水たまりは演出効果の大きな手助け

普通の視点では発見できない、ホームの水たまりの映り込み。ホームに上がる階段の下からホーム面を見て初めて見つけられた。大きな景色では足元を見ることが大切。

絵コンテ

見取り図

乗降客の多い月岡駅はドラマが生まれやすい。3つの撮影ポイントから立山方面に進む列車を狙うが、主題次第で仕上がりイメージはさまざまだ。掲載作品はポイントAから撮影したもの。富士フイルムのカメラに100~400mm のレンズを装着し、背景の立山を入れるかテールライトを狙うかを考えた。ホームにある水たまりに信号の色が映り込むことが撮影ポジションの条件。


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著者プロフィール

相原正明

1988年のバイクでのオーストラリア縦断撮影ツーリング以来かの地でランドスケープフォトの虜になり、以後オーストラリアを中心に「地球のポートレイト」をコンセプトに撮影。2004年オーストラリア最大の写真ギャラリー・ウィルダネスギャラリーで日本人として初の個展開催。以後写真展はアメリカ、韓国、そしてドイツ・フォトキナでは富士フイルムメインステージで個展を開催。また2008年には世界のトップ写真家17人を集めたアドビアドベンチャー・タスマニアに日本・オーストラリア代表として参加。現在写真家であるとともにフレンドオブタスマニア(タスマニア州観光親善大使)の称号を持つ。パブリックコレクションとして、オーストラリア大使館東京およびソウル、デンマーク王室に作品が収蔵されている。また2014年からは三代目桂花團治師匠の襲名を中心に落語の世界の撮影を始める。写真展多数。写真集、書籍には「ちいさないのち」小学館刊、「誰も言わなかったランドスケープ・フォトの極意」玄光社刊、「しずくの国」エシェルアン刊。

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