イラストレーター・佐倉おりこさんインタビュー:女の子の可愛さを引き立てる「メルヘンファンタジー」の世界

イラストレーター・佐倉おりこさんによる「メルヘンファンタジーな女の子のキャラデザ&作画テクニック」は、テーマとモチーフの掛け合わせや色彩から、女の子キャラのデザイン例を多数収録した、いわば女性キャラの「アイデア帳」です。

「メルヘンファンタジー」とは、「絵本のようなかわいらしさ」と「空想的・幻想的な世界観」をかけ合わせた世界観のこと。本書では、「童話」、「花」、「スイーツ」、「空」という4つの大きなテーマの中で、「白雪姫」、「バラ」、「ティラミス」、「星空」などの多様なモチーフを手がかりに、かわいらしい小物や服装を鮮やかな色彩で表現した「メルヘン」と、現実には存在しえない”ケモミミ”や超自然的な現象が存在する「ファンタジー」の世界に住む女の子キャラをかわいく描くためのコツを伝えます。

キャラクターの造形だけにとどまらず、現実に存在する服装を「メルヘンファンタジー」な衣装にアレンジする方法や、カラーリングの設定、小物の扱い方、表情の描き分けにいたるまで、メルヘンファンタジー世界に生きる女の子キャラを魅力的に見せるアイデアを徹底的に詰め込んだ一冊。作例集としての使い方のほか、作品集としても楽しめる内容に仕上がっています。

PICTURESでは著者の佐倉おりこさんに、本書執筆時のエピソードやイラストレーターとしての心がけなどをお聞きしました。ここではインタビューの模様をお送りします。

メルヘンファンタジーな女の子のキャラデザ&作画テクニック
(c)佐倉おりこ

出会った作品の「良いと思うところ」を取り入れた

――はじめに、自己紹介をお願いします。

元々はWebデザイナーとして2年くらい勤務した後、2016年に「Swing!」という漫画を連載するタイミングで、フリーランスとして独立しました。

連載は1年くらいで一区切りになったのですが、その直後からイラストの仕事をいただくようになりました。それから本格的にイラストレーターとして活動を始めて、今にいたる、という感じです。

※「Swing!」は現在、Webコミックサイト「COMICリュエル」で「すいんぐ!!」として連載中。

――Webデザイナーとして勤務していた頃から、漫画を描いていたのですか?

そうですね。始めは漫画連載は会社員として勤務しながら描いていました。

デザイナーとしてもそこそこ力もついてきて、そろそろ夢であったイラストのお仕事に軸足を移したいと思っていたので、連載のオファーがあった時点で、思い切って退職を決めました。将来的にはイラストレーターとして食べていけたらと思っていたし、覚悟を決めるいい機会かなと。

――普段の仕事を教えてください。

児童向けの書籍、文庫やライトノベルの挿絵が多いです。

――絵を描き始めたのはいつごろからですか?

両親によれば、物心がついた頃から絵を描いていたらしくて、広告の裏など白いところを見つけたら、ずっと描いていたそうです。ずっと描いていたので、きっかけはわからないですね……。

佐倉おりこさんのサークル「なないろ畑」発行の同人誌。初期の作品「NANAIRO」(写真左端)は再販も考え中だという

――絵の上達を意識し始めたのは、どのくらいの時期からですか?

小さな頃から絵が好きで練習はしていましたが、一番意識し始めたのは高校生からです。

高校生のときからイラスト関係の仕事をしたいと強く思い始めたので、それで専門学校のイラスト系の学科に進学しました。両親には反対されましたが、学費は全額自分で払うということで説得して、高校ではずっとアルバイトで学費を貯めていました。

――イラストレーションの仕事は、基本的にオリジナルですよね。これまでに影響を受けた作品はありますか?

ゲームの「テイルズ」シリーズですね。中学生のときに「テイルズ・オブ・ファンタジア」に出会ったのをきっかけに、ファンタジーの絵を描くようになったので、それが一番のきっかけです。

――イラストレーションの技術を磨く中で、影響を受けた人はいますか?

自分が覚えていないだけかもしれませんが、実は「いない」んですよ。

ネットで出会って、良いと思った作品から「いいとこ取り」で吸収していった感じです。例えばこの人の描く「目」がいいな、とか「服装」がいいな、といった風に、自分が良いと思った部分を取り出して、自分の絵柄を作っていきました。そのせいか、誰かに似てる絵柄だと言われたことはないです。
それに誰か一人を追っていると、どうしてもその人の絵に寄ってしまうので、自分の絵柄ではなくなってしまう気がして、それは避けたかったというのもあります。

日々のスケジュールは絶対に崩さない

――イラストレーターとして仕事をする中で、心がけている習慣はありますか?

日々のスケジュールをしっかりと管理して生活するようにしています。毎日決まった時間に起き、作業を始めて、ある時間になったら作業を終えるか、もう少し続けるかを決める。それと依頼いただいた仕事のデータは毎回早め早めで提出するように心がけています。

それと仕事のメールは、気付いた時点ですぐに返信するようにしていますね。いろんなところからご連絡をいただくこともあって、溜めてしまうと忘れてしまいそうになるし、あまり遅いと迷惑がかかってしまうこともあります。これは会社員の頃の経験から、そうするようになりました。

――一例として、1日のスケジュールを教えてください。

だいたい朝7時前に起きて、朝食などの支度をしたら、8時に作業を始めます。12時くらいに休憩をとって、17時くらいまで仕事をしたら、食事などを済ませて、20時くらいから作業を再開、0時に仕事を終える流れですね。特別な何かがない限り、基本的にこのリズムは崩さないです。

――いわゆる「オフ」のタイミングは、どのような基準で決めているのでしょうか。

実は決めていないんですよ。土日にちょっと外出するくらいで、あとはずっと仕事をしています。買い物も、何か欲しいものがはっきり決まっていないと出ていかないですし、気分転換に散歩するということもないです。絵を描いている時間が一番楽しいですね。

――仕事でもある「絵」が趣味、という面もあると思うのですが、それ以外に趣味と呼べるものはありますか?

気分転換に部屋の模様替えをするのが好きです。といっても、一度にがらりと変えてしまうわけではなくて、グッズが増えたら物の配置を変えたりして、少しずつ変えていくようなイメージ。基本的にずっと部屋にいるので、自室くらいはテンションの上がる環境にしておきたいですよね。

――機材などの仕事環境を教えてください。

液晶タブレットはワコム「Cintiq」の24インチモデルですね。4~5年くらい前に出た古い機種ですが、初任給で買ったのを憶えています。買うなら大きい画面の機種がよかったので、これにしました。でもそろそろ買い替えどきかなという気もしています(笑)。

あとは、オカムラさんの昇降デスク「Swift」を使っています。ソフトは「Clip Studio Paint EX」ですね。クリスタを使い始めた当時は、あまり背景を描いたことがなかったので、「パース定規」のあるクリスタを使い始めたのがきっかけです。それ以来は、下書きから仕上げまでずっとクリスタです。

――液タブをメインに使われているということですが、線をよく見ると、若干ブレていたりと、デジタルで描いているという感じが少ないように感じます。

それは単に線の引き方が雑なだけだと思うのですが(笑)、私は絵を描いているときにほとんど拡大しないので、アナログっぽく見えるのはそのせいではないでしょうか。拡大するのは最後の仕上げに修正するときくらいで、描いている段階では紙に描くのと同じような描き方をしています。

――マルチモニターを使われていますが、使い分けはされているのですか?

作業中は、片方に絵の全体が映るようにして、もう片方に資料などを映すようにしています。

佐倉おりこさんの作業環境
現代 (c)佐倉おりこ
メルヘンファンタジー (c)佐倉おりこ
7月上旬にインタビューへ伺った時点でのToDoリスト。同人誌の入稿は「絶対早割派」なのだという

――絵を描く上でのモチベーションは、どういったものなのでしょうか。

自分の作品が次々に完成していく、それ自体がモチベーションです。評価されるために描いているわけではないし、描きたいから描いている。もちろん、評価していただける事自体はすごくうれしいのですが、まずは自分の作品を仕上げることが私の中で先に立ちます。

仕事で描いている場合は別という話も聞きますが、私の場合は「自分が楽しいと思える」仕事しか受けないので、気が乗らないということもありません。どちらかといえば、ギャランティよりも「楽しい仕事かどうか」を重視しています。例えば、100万円で「やりたくない仕事」と50万円で「やりたい仕事」のお話を同時にいただいたとしたら、やりたい仕事の方を選びます。そうじゃないと、モチベーションが維持できないので。

あとは、これまで描いたことのないものが上手く描けたときに達成感を感じますね。普段「描いたことがないもの」を選んで描くようにしているので、実際に描いてみて、満足のいく仕上がりになったとき、絵が上達したな、という感覚があります。

幅広いモチーフを描いていた方が、自分も、絵を見る人も楽しいんじゃないかと思うのです。これまでに描いたことのない人物、背景、構図、配色、デフォルメなど、「描ける」ものごとのパターンを増やしていく。自分の絵柄を活かしながら、いろんなものを取り入れて「描けないもの」を減らしていきたい。そうすることで、ほかのイラストレーターの方との差別化もできるのではないかと考えています。

――できること、描けるものを増やしていくためのトレーニングは、どのようにしているのでしょうか。

私の場合は、仕事の合間にひたすら描いています。とにかく手を動かすことで、体に覚え込ませるのです。ポーズ集などの資料を見ながら、描けなさそうなポーズや構図の習作をアナログでいっぱい描きます。

やり直しの効かないペンで一発描きです。何か描いて、と言われたときに、デジタルじゃなきゃ描けません、ってなったら恥ずかしいですよね。

イラストレーターという肩書の人は世の中にたくさんいるので、常に差別化を意識しています。そうじゃないと埋もれてしまうと思うので……。

ひたすらに手を動かして、引き出しを増やす

――本書のメインテーマに沿って解説する中で、気をつけたポイントはどこでしょうか。

収録しているキャラクターの数が多いので、かぶりがないように気をつけました。たとえば襟の形一つ取っても、いろんなパターンを描いています。

――キャラクターごとの「描き分け」の秘訣とは、どういったものなのでしょう。

自分の中でパターンをたくさん作っておくことでしょうか。自分の絵柄の中で、この性格ならこの顔、といったふうにパターンがいっぱいあるので、そこから選んで使っている感じです。

例えば眉の位置や目の細さ、口の形などなど、それぞれを組み替えるだけでも数百パターン作れてしまいますよね。組み合わせの引き出しをたくさん作っておいて、必要に応じて適したものを選び、取り出すイメージです。

キャラクターは一人ひとりが別の個性なので、細かく分けていくと全然違います。頭身や輪郭から目や口の形、髪型など、変えるところがいっぱいあるんですよ。

表情の描き分けについては、これはもうひたすら手を動かして練習するしかないでしょうね。私の場合は、500枚入りのコピー用紙をいくつも買ってきて、ひたすら表情を描いていた時期もありました。

(c)佐倉おりこ

――キャラクターが持つ個性に関して、「設定」と「絵」では、どちらを先に作り込むのでしょうか。

原作がすでにある場合は設定から絵を起こしますが、自分がオリジナルで作る場合、設定は後付けで作ります。時には、その設定から連想した要素を絵に反映することもあります。「設定」と「絵」の間を往復してキャラを形作っていくことは多いです。

――今回の本を製作するときに大変だったことはありますか?

とにかくテキストを描くのが大変でしたね。いつもは感覚で描いているので、「これは何を考えて描いたのだろう?」という感覚の言語化に苦労しました。でも、この作業を通して、これまで感覚だけでやっていたことが言葉で理解できた面もあるので、これはこれですごく勉強になりました。

――著者として、読者に注目してほしいポイントはありますか?

キャラデザの部分ですね。今回の本では普段は描かないようなテイストのキャラクターも描きましたし、日頃増やし続けている引き出しの多さを出せたのではないかと思っています。「こういうのも描けたんだ!」って思っていただけたらうれしいです。

――今回は「童話」「スイーツ」「花」「空」という4つの大きなテーマにほかの要素を掛け合わせてキャラクターデザインを行っていますよね。キャラクターの作り方として、完成形のイメージは最初に持っておくものなのでしょうか?

そうですね。モチーフが決まった時点で、頭の中になんとなくキャラクターの形ができているので、そこから実際に描いてみて、完成形を模索します。今回の描き方だと、メインテーマと別の何かを掛け合わせる形でキャラクターを発想するので、ひとまず手を動かしてある程度形にしていきます。そこで違うな、と思ったらネットで検索をかけたりして、新しいアイディアを取り入れたりもします。

――本書に収録したキャラクターの中で「今までの自分にないものが出せた」と思う子はいますか?

各章ごとに気に入っている子を挙げるなら、「童話」は「アリス」、「スイーツ」は「ホットケーキ」と「マカロン」、「花」は「カエデ」、「空」は「雪」ですね。読んでくださった方の感想を聞いていると、人気が特定の誰かに偏っているわけではないので、クオリティ的には均等に描けたのかな、と思ってホッとしています。

マカロン (c)佐倉おりこ

――難しかったモチーフはありますか?

「人魚姫」はこれまでに描いたことがなかったので苦労しました。あとは「雪の女王」と「乙姫」のように、大人っぽいキャラは難しかったですね。

特に童話はみんなの中にはっきりとしたイメージがあるので、できるだけかぶらないようにアレンジしています。童話モチーフのキャラクターを描くときは、最初だけ資料を参照して、あとは一切見ずにアレンジを加えて作り込んでいきました。

人魚姫。「最初のイメージから襟の形などデザイン上の要素に対して、ひたすらアレンジを加えています」(c)佐倉おりこ

――自分でもキャラクターデザインをしてみたい人に向けて、キャラデザのコツなどあればお聞きしたいです。

まずは自分の中に「引き出し」をたくさん作るといいと思います。誰かの絵の中の一部分、例えば「襟」「スカート」だけに注目し、たくさん描いてみて、描ける引き出しを作っておく。とにかく「自分にとって良い」と思えるところだけを自分の絵に中に取り込んで、「いいとこ取り」をすると良いのではないかと思います。

――佐倉さんはオリジナルの作品でも、女の子キャラクターを描かれることが多いですよね。本書では「女の子キャラをよりかわいくするためのアイデア」を集めていますが、佐倉さんにとって「かわいい女の子」を描くモチベーションは、どのようなところにあるのでしょうか。

女性キャラは、デザインするうえで採れる選択肢が男性キャラと比べて豊富なところが大きいですね。男性キャラはヘアスタイルや服装の面である程度スタイルが固定されてしまって、そこから離れすぎると変になってしまいがち。その点、女の子キャラは男の子っぽくもできるし、デザインに幅があって楽しいのです。

Webサイトはしっかりと作り込む

――佐倉さんは、Webサイトもご自分で作られているそうですね。

はい。「WIX」というホームページ作成サービスを使っています。ボタンを大きくしたり、レイアウトを工夫したり、UI/UXの面で、どうしたら最も効果的なのかという点を考えて作りました。前職がWebデザイナーだったので、その経験が活きたところですね。

――WebサイトやSNSの使い方で、工夫している点はありますか?

Webサイトは、クライアントに対してイラストレーターとしての価値を見せる場と考えています。サイトの作りがしっかりしていた方が、クライアントにも「しっかりした人だな」と思ってもらいやすいので、絵を見やすくしたり、制作実績を細かく更新するなどして、信用度を上げる努力をしています。

SNSに関しては、PixivTwitterInstagramを使っています。Pixivは創作や版権ものの絵を置く場所、Twitterは宣伝・報告のツール、Instagramはファンの人向け、という感じで使い分けています。特にTwitterはお仕事関係の方も見るので、極力ネガティブな発言はしないようにしています。

――今後、やってみたい仕事はありますか?

個人画集を出したり、個展を開いてみたいです。あとは、絵柄が合えば、ゲームやアニメのキャラクターデザインもやってみたいと思っています。特に、可愛い衣装が映える魔法少女系アニメにはとても興味があります。

メルヘンファンタジーな女の子のキャラデザ&作画テクニック」(玄光社 2018年刊)

<玄光社の本>

メルヘンファンタジーな女の子のキャラデザ&作画テクニック

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